400話記念話8 ready to fight4
400話記念話8 ready to fight4
ニヤリと自信に満ち満ちた笑みを携えて、真島さんがリングに上がる。
新星さんは三連戦したにも関わらず、汗の一つも掻いていない。初心者など相手にもならないといった風貌で待ち受けるその姿は、まさにチャンピオンそのものだ。
『余裕そうっすね。ま、あの三人なら俺でも楽に倒せそうだったしな〜。ああ、アンタが誰かに負けてくれてりゃ賞金獲得は楽勝だったのに』
コキコキと指を鳴らしながら挑発する真島さんだったが、言葉は返ってこない。
返ってきたのは、突き出された拳だけだ。言葉はいらない、という事なのだろうか。
まるで漫画の世界を覗き込んでいるかのようだった。成長を続けて難敵を薙ぎ倒していく主人公と、そこに立ちはだかるライバル。この二人の構図はまさにそれだ。
『穂高ーッ! お前負けたら来月の有給減らすからなー!! 俺らの肉のためにも負けんじゃねえぞコラァッ!!』
『へっ!? ちょ、マジすか先輩!? というかなんすか俺らの肉のためって! 俺、この賞金で奢らなきゃなんすか!?!?』
あれは……ああ、あのおじさんを真島さんと一緒に運んでた人たちだ。ということは同じライフセーバーの人か。
主人公の逞しい表情から一変。先輩たちの声援に慌てふためくところを見せてから、一息。はぁ、とため息を吐いてから、顔つきが戦闘モードへと切り替わっていく。
『クッソ、応援しに来るって聞いた時に気づくべきだったか。せっかくこの金で女の子捕まえようと思ってたのによ……』
「ふふっ。ゆーしの目、キラキラしてるよ? まるでヒーローでも見てるみたい」
「う、うるさいな。お前だって大はしゃぎしてるくせに」
ヒーロー、か。
俺はあの人に憧れている。強く、逞しく、そして笑顔を絶やさない。力と優しさを併せ持った、まるでヒーローのようなあの人に。
ドクンッ、と心臓が高鳴り、身体が熱くなっていくのを感じる。
(頑張れ、真島さん……っ!)
その心持ちは、まさに戦隊ヒーローを応援する子供のそれであった。
『では最終試合、スタートですッッ!!!』
そして、開戦のゴングが鳴る。
『シッッーーーー!』
先に仕掛けたのは新星、山崎把瑠都。数々のチャレンジャーを葬ってきた音速の右ストレートが空を切る。
狙ったのは顎の先端。ここに拳が直撃すると激しく脳が揺れ、最悪の場合は一撃で意識が飛んでしまう。
あの人、序盤から本気だ。本気で、真島穂高さんその人を屠ろうとしている。
しかしーーーー
『っぶね! はは、初心者相手にいきなりかよ。案外余裕無ーーーーおっ!? ちょ、まっ! 速えよ!!』
右へ、左へ。拳が炸裂するギリギリのところで身を捩る真島さんへは、どれも決定打にはなり得ない。
焦った様子を見せながらも、その目は確実に拳を見切り、その手は全ての攻撃を捌いていた。
『やっぱボクシングじゃ勝てねえな。流石、新星とやらは違うわ』
そして、再びその口元には笑みが浮かぶ。
勝負が決まったのは、その直後のことだ。
真島さんはボクシングでーーーーいや、拳で戦う事を捨てた。
『っお゛ぉ!?』
『やりぃっ。玉さんもーらいっ!』
それは、真島さんの笑みと拳捌きに明確な″焦り″を見せての大振りが頬を掠めた瞬間。
真島さんは大きく身をのけぞらせて体勢を低くすると、その刹那に身体を百八十度回転。カメラに鍛え上げられた背筋が映った時にはもう、右脚の背面蹴りが新星さんの新星さんに直撃していた。
『こ、かっ……はがっ!?』
『うへぇ〜、いったそぉ〜。でもまだ立ってられるのは流石だわ。意地ってやつか? ま、もう終わりだけどな!』
初めは、誰もが新星さんの勝利を予感した。
なにせ前任者三人があのやられ方だ。格が違う、と。試合を見ていた者全員にその圧倒的な強さを見せつけた状態での、最終戦。
『ドラァッッ!!!』
その結末はーーーー男を殺す蹴りと、顔面を叩き壊す狂拳による、ジャイアントキリングであった。




