400話記念話6 ready to fight2
400話記念話6 ready to fight2
「げほっ……ごほっ。は、はぁ!? あの人何やってんだ!?」
「んぅ? ゆーし? どうしたのぉ……」
「由那! 見ろあれ! ほらっ!!」
「ん〜……わぁっ!? つ、机がびちょびちょ! な、なな何があったの!?」
「いやそっちじゃない! テレビだテレビ!!」
俺の声で目を覚ました由那が一番初めに目にしたのは俺のせいで起こった惨状であったが、今見て欲しいのはそれじゃない。いや確かにそっちも大変なことになってはいるけども。
「え? あの人って……真島さん!?」
「そうだよ! 真島さんがプロボクサーと試合するんだよ!」
いつかまた会えたらいいなーーーーなんて、そんなことを思っていた相手が、まさかテレビの中から顔を見せてくるとは思いもしなかった。
思わずリモコンをもう一度手に取って録画ボタンを押してから、目を見開く由那と共に。画面を眺める。
『お兄さん凄い筋肉ですね〜! では、お名前とご職業をお教えいただいてもいいでしょうか?』
『うっす。真島穂高って言います。ライフセーバーやってます。えと……あ〜、え? 表情が固い? いやぁ、一応テレビだし畏まったほうがいいのかなって。ああ、いらない? おけっす! じゃあ素の俺でやらせてもらいやす!』
『あはは、カンペを読み上げるのはやめてやってください……』
マイペースな口調と態度で頭をポリポリと掻きながら笑みを浮かべる真島さんに、ドッと会場が湧き上がる。
コメンテーターの人からの質問の答えによると、どうやら真島さんは夏休みも明けてライフセーバーとしての仕事が少し暇になってきた時の休暇、番組のスタッフから声をかけられて参加を決意したらしい。
『いや〜、参加動機はお金っすね。ちょうど仕事も暇で退屈してましたし、暇つぶししてお金も貰えるなら一石二鳥かな〜って』
『おおっ! じゃあ勝つ気満々ということですね?』
『もちろんっす。なんせ五十万がかかってんですから』
しかし真島さん、大丈夫なのだろうか。
あの人がすぐに負けてしまうようなやわな人ではないことは重々承知している。あの酔っ払いのおじさん相手にたったの一発でノックアウトを決めたパンチは凄まじかったし、何よりあの人には″勝ってしまうのではないか″と思わせる凄みがある。
が、相手はプロボクシング界の新星とまで呼ばれた男。常日頃から人を殴り、倒すことを繰り返し、格闘に人生を捧げてきた彼が相手では、いくら真島さんでも厳しいのではないか、と。そう思わざるを得ない。
「真島さんがんばれーっ! ふふんっ。あの人ならボクシング界の信玄? なんて余裕だよ!」
「信玄じゃなくて新星な。いやでも、どうなんだろうな。相手が悪すぎるような気もするけど……」
憧れの人である真島さんが誰かに負けてしまうかもしれない。
そんな、恐怖心を抱く一方で。同時に俺の中には、もう一つの感情が渦巻いている。
(真島さんがどれだけ強いのか。気になる……)
それはまるで少年誌の主人公が強敵と戦う時のような、心を揺さぶられる好奇心。
真島穂高さんその人の戦う姿が見たいという、純粋な男心だ。




