400話記念話5 ready to fight1
400話記念話5 ready to fight1
「すやぴ……すぴぃ……」
「ふあぁ。ねっむ……」
程よくクーラーを効かせ、リビングのソファに腰掛けながら。情けないあくびを漏らす。
お昼ごはんを食べ終えた俺たちは、それからしばらく。ここでくつろいでいるうちに眠気に支配されていた。
由那は俺の太ももを枕にして静かに寝息を立てているし、俺もさっきから瞼が重い。今日は特に用事も無いからこのまま由那をおぶって部屋のベッドに……なんてのも考えたのだが。正直それすら億劫になってしまっている。
(テレビでもつけるか……)
太ももに頭を乗せている由那を起こさずに俺が手に取れるのは、スマホとテレビのリモコンだけだ。
普段は動画サイトばかりであまりテレビには目を向けないのだが、たまには、と。気まぐれでリモコンを手に取り、電源を付ける。
しかしーーーー
(ロクなのやってないな、この時間帯)
平日の昼下がりというのは、どのチャンネルも若者が見るようなバラエティ番組やお笑い、アニメなんかもやっていない。
当然だ。基本的にこの時間帯、学生は学校に行っていて家でテレビなんてつけない。今は夏休みシーズンだから多少違うかと思ったが、昔から続いているテレビ番組がいきなりそのシーズンだけ内容変更になるわけもなく。流れているのはどこもコメンテーターの人やゲストの芸人さんなんかが政治について語り合っているものばかり。
ただでさえ意識が飛びそうな程に眠いというのに。これでは悪化してしまうだけじゃないか。
そんなことを考えながら、それでも何かないかとしばらくチャンネルを漁っていると。やがて、一つの番組へと行き着く。
『さて、本日もやってきましたready to fight! 今回は選りすぐりの四人の挑戦者が登場です!!』
ready to fight、という格闘番組? らしい。
どうやらコンセプトとしては街中の喧嘩自慢や不良なんかを集め、番組側が用意した最強の刺客と戦う。そして見事ノックアウトすることができたなら賞金獲得という、普段俺は微塵も見ないジャンルだ。
しかし、他のチャンネルをぼーっと眺めるよりはマシか、と。一旦リモコンを机の上に戻し、左手で由那の頭をそっと撫でて愛でながら。目線を画面に固定する。
まあ、ボクシングやレスリングすら見たことのない俺が楽しめるのかはかなり怪しい気がするけどな。
『挑戦者の方々に向けて私どもが本日お呼びした刺客は、あのボクシング界の新星、山崎把瑠都さんです! さあ、こちらへどうぞ!!』
(う〜ん、知らない……。新星? って言うからには強いんだろうけど)
ナレーターの説明によると、この人はどうやらプロボクシング界に足を踏み入れて一年のルーキー。しかし、これまで行った試合は八戦七勝一引き分けと、かなりの好成績なようだ。たしかにこの人を街中の一般人が倒せたのなら、賞金くらいあげて然るべきだな。
『では続いて、チャレンジャーの方々のご紹介です!!』
そして、そんな最強の刺客へと挑む面々が姿を現す。
全員がおそらく番組側から支給されたのであろうパーカーを羽織っており、フードで顔を隠している。
しかし、既に体格や纏っているオーラが普通のそれではなく、明らかに″強そう″だと。格闘番組初心者の俺でも分かるほどのものだった。
「うわ、顔も筋肉もゴツい。って……あれ?」
到底、俺では関わり合いのないであろう漢たち。
誰でも思い浮かぶような凡庸な感想をぼそりと呟きながら、お茶を口に含んで。
ーーーーその顔が画面に映し出された瞬間に、俺はそれを全て吹き出した。
「ま、真島さん!?!?」
そこにいたのは、あの日。旅行で海に訪れて、酔っ払いのおじさんに絡まれて。そしてその相手から助けてくれた、憧れの人。
ライフセーバーの、真島穂高さんその人であった。




