400話記念話3 心音という名の安眠剤3
400話記念話3 心音という名の安眠剤3
「……は?」
「だ〜か〜ら! 私の音もゆーしに聞いて欲しいの〜! 幸せのお裾分け!!」
いや……いやいやいやいや。
え? 心音を聞く? 聴診器の一つでもあるのならともかく、今由那がやってるみたいに胸に顔を当てて……?
(そ、そんなの無理に決まってるが!?)
「あ、また音速くなった〜♡」
コイツは自分が何を言っているのかちゃんと理解できているのだろうか。それともわざとか? 理解した上で揶揄っているのか?
由那が俺の胸に耳を当てるのと、同様のことを俺が逆に由那に対してするのではあまりに意味合いが違う。
なぜなら、由那の胸部にはあの最強のたわわが備わっているから。ぺったんこな俺のとは違い、顔なんて当てたら確実に柔らかな感触が炸裂することになる。
「お前なあ……俺は絶対にやらないぞ。由那だけ楽しんでくれ」
「ええ〜! ゆーしにもこの感触を味わって欲しいのに!! なんで!?」
「自分の立派な胸に聞いてみろ」
とにかく、これはダメだ。由那のたわわに顔を埋めるなんてこと。一応ハプニングで一度だけ触ったことはあるし普段から色々なところに押し付けられてもいるが、これはわけが違いすぎる。
「しゅん……」
「そんな顔してもダメだからな。ほら、俺のならいくらでも聞いていいからさ」
「ゆーしは大好きな人の心音、聞きたくないんだ。それとも私のなんて、いらない……?」
「い。いらないって、おま……言い方……」
「しょぼん……」
う゛っ。なんだこの罪悪感は。
あまりに極端な解釈だ。そして落ち込み方が見ていられない。
そりゃ俺だって、そこまで言われては心音とやらがどれくらい心を和ませるものなのか、聞いてみたい気持ちはある。
しかし、やはり気軽にできることではない。俺がいくら臆病者だとは言っても、これは流石に俺じゃなかったとしてもーーーー
「ゆーしは私のこと、もう大好きじゃなくなっちゃったんだ」
「いや待て。それは絶対に違う。違うって、分かってるだろ。怒るぞ?」
「っ……で、でも! 大好きな人の音は聞きたくなるはずだもん! だけど、ゆーしはーーーー」
「誰が聞きたくないなんて言ったんだよ。そんなわけないだろ」
「へ……?」
ああもう、なんなんだ今日のコイツは。いつもはうざったいくらいに明るいくせに。珍しくもマイナスにばかり考えてる。
流石に、そこまでのことはできない。そう思ったから断ったってのに。俺が思ったと同時に、お前も後から恥ずかしさで後悔するかもしれないから……って。
けど、俺が由那を大好きな気持ちまで少しでも疑われてしまうのなら話は別だ。たとえさっきのが本心というわけじゃなく売り言葉に買い言葉で出てしまったものだったとしても。
「もういい、分かった。そこまで言うなら聞く。聞いてやるとも。大好きな人の心音とやらを」
「わわっ!? ゆ、ゆーしさん? 肩、急に……えっ!? 怒って、る……?」
「怒ってる。由那が言っちゃいけないことを言ったからな。いいか? 今更やっぱりなしはもう、できないぞ」
「あ、うっ……」
ゴクリ。由那が唾を飲み込む。
それと同時に俺は、肩を抑えて逃げられなくしたまま顔を近づけた。
ーーーー目の前の、たわわな果実へと。




