400話記念話2 心音という名の安眠剤2
400話記念話2 心音という名の安眠剤2
ーーーーしかしまあ、そんなことは言いづらい。
だって見てくれあの顔。さっきまでより目のキラキラが増していて完全に俺からの褒められ待ちだ。きっと本人は本当に世紀の大発見をしたのだと思っているんだろうなぁ……。
「えっ、と……うん。よしよし」
「にゃひぃ〜♡ もっとよしよしして〜?」
とりあえず撫でておいた。
それにしても、心音か。コイツいつも猫のように俺の胸にすっぽりおさまって眠っているけど、まさかそんなものを聞いていたとは。
匂いを嗅いでいたのは知っていたけど、それは初耳だ。頬擦りや顔をぴっとりと胸につけてくる動作はもはやいつものに甘えんぼの延長線上な行動なので、特に気に留めていなかったし。
「というか、心音ってそんなに聞こえるもんなのか? 地肌に耳引っ付けてもあんまり聞き取れなさそうだけど」
「えへへ、意外としっかり聞こえるよ? ドキドキしてて音が大きくなっちゃってる時はもちろんだけど、リラックスして寝てる時のゆっくりな音も!」
「ま、マジか。なんかちょっと恥ずかしいな」
つまり由那がいつも寝るときに聞いてるのは、俺の緩やかな心音。昔は一緒に寝るっていうのにも色々とドキドキしてしまっていたものだけど、今はそれなりに慣れた。確かにそんなゆっくりな心音なら聞いていてかなりリラックス効果があるかもしれないな。
てっきりいつもの″好きな人といると落ち着く″の延長線上の話だとばかり思ったていたが、案外凄いと感じ始めている。まあ、とはいえだからなんだと言われてしまえばそれまでなんだけども。
「いやぁ、これを知っちゃうと本当に睡眠の質がグンと上がるよぉ。心音そのものにも人を落ち着かせる効果があるのかもしれないけど……やっぱり、大好きな人の音、だからかな?」
「っ……」
可愛い。頬を赤らめながらそんなことを言われて、俺の心臓は静かに跳ねた。
「あ〜、ゆーし照れてるっ。そんな時にはどんな音がするのかな?」
「お、オイ……ちょっーーーー」
ぴとっ。
ニヤりと小悪魔さんな笑みを浮かべた由那は、いきなり俺に抱きついて。シャツ越しに左胸に耳を当て、身体を密着させる。
「どくん……どくんどくんどくんどっくんっ。心音、速いね♡」
「そ、そりゃそう、だろ。ドキドキさせられた直後なんだから」
「うん。静かな心音を聞いて落ち着いていられる時間も好きだけど……こうやって、ゆーしが私にちゃんとときめいてくれてるって感じられる音も、大好き」
甘い匂いが鼻腔をくすぐると同時に、背中に回された手のひらに込められる力が強まる。
由那は今、俺の心臓からどんな音が聞こえるのかを理解した上で耳を当てていたらしい。相変わらず、コイツにはなんでもお見通しだな。
「あ、そうだ! いいこと思いついた!!」
「へ? ど、どうした?」
むくりと胸元で由那の顔が上がると、ぽよぽよと柔らかな表情と共に満面の笑みを浮かべて、言う。
「この幸せを私一人で独占するのはもったいないよ! だからーーーー」
それは、あまりに想定外の言葉。
そして同時にーーーー波乱を呼ぶ言葉。
「ゆーしも私の音……聞いて?」




