399話 二人きりの時間4
399話 二人きりの時間4
「……って、言ってたのに」
「すぅ……ぴぃ……」
しばらく俺の体に身を預けて手を繋いだり、満足そうに見つめてきたり。そんな時間を続けていると、やがて有美は静かに寝息を立て始めた。
結局、疲れが来ていたのだろう。幸せそうに眠っている。
「……」
とりあえず、少し体勢を変えよう。
有美を起こしてしまわないようそっと身体をずらし、隣り合わせで座っていた状態から、俺が後ろに行く形へ。横にもたれかかって斜めの体勢で寝るのは少ししんどそうに見えたので、背もたれのように完全にもたれかかってもらうことにした。
「むみぃ。あ〜ぅ」
「ふふっ、赤ちゃんみたい」
よく引き締まっていて細い腰回りに手を回し、後ろから支えて。いたずらにほっぺをつついてみると、小さな声が漏れた。
日頃から日焼け止めを常備して白く整えている肌は保湿も完璧で、軽く指で摘んでみるとよく伸びる。どこまで伸びるか試してみたいという邪な考えが一瞬生まれたが、流石にやめて指の腹で少しだけ摘むに留めておいた。
(ほっぺ、久しぶりに触らせてもらえたな。まあ寝てても本能でちょっと嫌そうにしてるけど。ちょっとくらい、いいよね)
有美はほっぺやお腹など、触ると″柔らかい″と感じる部位を触ろうとすると、ちょっと嫌そうな顔を浮かべる。
いやまあ、女子はそういうところは自分で気にしているだろうから、有美だけが特別そうってわけじゃないのかもしれないけれど。
ともかく、そういう理由でこうやってほっぺを堪能できる時間はそうそう取れない。普段はこうやってふにふにさせてもらえるの、耳だけだから。
それにしても本当、お餅みたいだ。勇士も江口さんのほっぺをむにむにするのは好きだと言っていて、気持ちはよく分かる。
ああ、ずっと触っていたい。売られているスクイーズやスライムとは比べ物にならないほどの触り心地の良さに、可愛い有美の寝顔付き。思わず時間を忘れて熱中してしまいそうだ。
「本当にお疲れ様。ゆっくり休んでね」
有美は寝てしまう前、甘やかしてもらうことを望んでいた。
午前中に溜まった疲れをしっかり取って、午後の競技に取り組む。そのための薬として俺を選んでくれた。
結果的には寝てしまったけれど……その想いには、しっかり応えてあげないと。
「えへへ……むにゃ……」
頭を撫で、後ろから抱きしめ、たまにほっぺをむにむにする。少し寂しそうにしていた手もしっかりと握りしめて、夢の中でも一人ぼっちになってしまわないように。俺という存在をしっかりと刻む。
昼休みが終わるまであと三十分。きっと有美はこのまま、起きることはないだろう。いずれは起こしてあげなければいけないけれど、せめてその時までは。この安眠を彼氏としてしっかり守ってあげることを、一人決意した。
「かんじい……」
「? もしかして、俺の夢見てる?」
自然と恋人繋ぎになった指先を無意識下でにぎにぎしながら、幸せそうに。有美は俺の名を呟く。
もしかして薄らと起きているのか……なんてことも思ったが、多分違うだろう。疲れ切って眠ってしまい見ている夢の中で、有美は俺と出会っているのだ。
一体どんな夢を見ているのだろう。楽しそうにしているし、どこかに出かけてる? それとも案外、いつものように俺の部屋でのんびりと過ごしているのか。夢なのだから、想像もつかない奇想天外なことをしているのかもしれない。一緒に空を飛んでいるとかーーーー
「そこ、らめらよぉ……舐め、ちゃ……」
「っっっっ!?!?」
あー……うん。
そういう感じ、か。




