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397話 二人きりの時間2

397話 二人きりの時間2



 教室に入った私たちは、いつも座る席とは違う、窓側最後列の二席に座った。


 ちなみに、窓側も廊下側も授業で教室を暗くしたい時用にカーテンが備え付けられているため、それらを閉めて外からの視界は塞いだ。扉の鍵は言わずもがなである。


「ふぅ。なんかやっと一息つけた、って感じがする」


「本当にお疲れ様。有美は試合でずっと引っ張りだこだったもんね。大丈夫? バテちゃったりしてない?」


「そこまでは……うん。大丈夫。というか、それを言うなら寛司もじゃない?二試合とはいえずっと動き回ってたし、試合が終わってからもずっと私たちの応援に来てくれてた。休憩、ちゃんと取れてないでしょ」


「俺は全然だよ。現役時代はこれでも四十五分ハーフの試合に前後半で出場してたんだよ? その九分の一でへばってられないね」


 寛司の現役時代……か。


 中学生当時、サッカー部に所属していたコイツの試合を一度だけ見に行ったことがある。たしかあれは公式戦が終わった後の引退試合だったか。


 その時の印象を一言で言うと、スーパースター。フォワードという最も攻撃的なポジションで点取り屋として活躍をする寛司はまさに、チームの希望であり星だったのだとたった一試合で理解させられたっけ。


「そ。ならいいけど。ところで……」


「ん?」


「……なに、それ」


 コトンッ。私の座っている席の机にお弁当箱が置かれたのと同時に、寛司の方にも手のひらサイズの小さな物が置かれた。


「まさかそれがお昼ごはんのつもり?」


「い、いやぁ。はは、ダイエット中で……」


「だからってそれだけはないでしょ!? ただでさえ今日はたくさん運動してるのに! 第一、アンタのどこにダイエットする必要性があるわけ!?」


 それの正体は、時間の無いサラリーマンなんかが飲むイメージのある飲料ゼリー。もはやそれは食べ物ではなく飲み物だ。とてもじゃないが一日三回のごはんのうちの一回の代わりにしていいものじゃない。


 あとなんだ、ダイエットって。やっぱり寛司の分も作ってくるべきだったか。


 本当は由那ちゃんのように毎日お弁当を作ってあげたいんだけど、私が毎朝ランニングに時間を使っているのを知っている関係もあって、寛司にはそれを遠慮されていた。実際に今日はたまたま時間があったから自分で作ったけれど、基本的にはうちもお母さんに作ってもらう日がほとんどだし。


 寛司の家の両親は共働きだ。ちゃんとお弁当を持ってくる時もあるけれど、大体二日に一回くらい。そのほかの日は購買のパンなどで済ませていることが多く、少し心配はしていたのだ。


(まあ、それにしてもあの身体でダイエットは意味分かんないけど……)


 何度も見ているから分かる。寛司の身体は元サッカー部ということもあり充分に筋肉質だ。これ以上絞り上げられたらもはや私の女としてのプライドまで削り取られかねない。


 なにはともあれーーーー


「とりあえず、今日は私のお弁当分けたげるから。そしてこれからは私の作ったお弁当を毎日食べること! いい!?」


「う、嬉しいけど……本当にいいの? 平日毎日ってかなり大変でしょ?」


「私がそうしたいって言ってるんだから、アンタは素直に貰っておきなさいよ。まあどの道、そろそろ言い出そうとは思ってたし」


 彼氏にお弁当を作り、一緒に食べる。由那ちゃんと神沢君が楽しそうに繰り広げている恋人の営みが、ようやく私にも。


(こらからはお義母さんがいない夜や土日だけじゃなく、平日のお昼も……)




 日々の楽しみが一つ、増えた。

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