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392話 三十秒1

392話 三十秒1



「俺を、使え? どういうことだよ……」


「そのまんまの意味だ。田辺と寛司はとことんマークされてて動きづらいだろうし、多分そこにボールを集め続けるだけのスタイルじゃもう点は取れない。だから……俺が取る」


 田辺は、俺の言葉に眉を引き攣らせていた。


 俺が今言っていることは全て、田辺が″そうさせまい″としてきたことだ。俺と寛司相手には特に。


 しかし、田辺は短気なように見えてどこか冷静な部分がある。きっと根の部分ではこのままでは負けてしまうと理解しているのだろう。不満を飲み込むような仕草を見せながらも、ゆっくりと息を整えて。俺の声を受け入れてくれた。


「できんのかよ。お前、サッカーなんてここ一ヶ月でしかやったことないだろ」


「けど、一ヶ月真剣に取り組んだ。やれることはやってきたつもりだ。寛司が中田さんにそうしたように、俺だって由那にかっこいいところ見せたいしな」


「……俺を、そのダシに使おうってか?」


「違う。むしろ逆だ」


「逆……?」


 俺は、寛司のようにはなれない。一人でこの逆境を覆す力なんて持っちゃいない。


 だからーーーー


「さっきも言っただろ。俺を使ってくれ。田辺が活躍するために」


 寛司と田辺にしていた集中マーク。あれは、言わば諸刃の剣だ。


 なにせコイツらを止めるには最低でも二人いる。つまりさっきも田辺が言っていたとおり、そこに数が偏るせいでその他全ての数の勝負で負けるということだ。


 つまり、あれをもう一人分……なんてことはできない。


 そんな時、もし三人目の集中マーク候補が現れたとしたら? 相手は選択を迫られる。


 寛司か、田辺か……そして俺か。誰を潰すかを。


 まああくまで、そうなるには最低限俺が点を取ることが必要なわけで。もし失敗すればただ時間を浪費することになるんだけどな。


「……一点だ」


 田辺は呟く。


「一点、もぎ取ってこい。逆転弾がお前なのは死ぬほど気に入らねえが……俺はその後二点取る。いいか? 二点だ! てめぇら二人の一点ずつなんて無に帰す得点王になって、とことん女子にアピールしてやる……っ!」


 どうやら、腹は決まったらしい。


「勝つぞ。四対一だ。お前、決めなかったらマジで殺すからな……」


「おう。任せろ」


 試合の残り時間は少ない。俺は俺のゴールのために。そして田辺は、その後の自分のゴールのために。それぞれの志を胸に、前を向く。


 伝えられた作戦はあまりに簡易的なものだったが、やはり流石は田辺だ。周りを見ることができるコイツだからこそ選べる、最善の策だと感じさせてくれる。


 作戦のキーマンは三人。俺と、田辺と、寛司。集中マークで潰されかけている二人と俺という今はあまりに少なく、非力な三人だが……俺が一本逆転弾を捩じ込めば、その力は一気に膨れ上がる。


「ゆーし……がんばれ……がんばれっ!」


「見てろよ、由那。絶対決めてやるからな……」


 勝負は一瞬。試合時間が残り一分を切るまでの三十秒で、この窮地をひっくり返す。




 ヒーローになるには……最高のシチュエーションだ。

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