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391話 ツキ

391話 ツキ



「クソッ……あんなの予想外だ。渡辺の野郎……」


「切り替えるぞ! あんな不意打ち、二度は決まらねぇ!! 他の奴は大して怖くねぇんだ、渡辺と田辺を徹底マークしてりゃ勝てる!!」


 相手ボールから、試合が再開する。


 寛司に華麗に抜き去られて失点した相手チームは、より一層団結力を増してマークを徹底する構えだ。きっともう、さっきのようにはいかない。


「っ……お前ら、こっち来んじゃねぇよ!」


「ああもう、しつこいな……どれだけ俺たちにマーク固めるんだよ……」


 必死にボールを奪っても攻撃へと繋がらない。


 バレているのだ。俺たち前半チームにはあの二人以外、まともな攻撃をできる選手はいないと。


 寛司、田辺に集中マークが二人ずつ付くと、俺たちのパスルートは一気に狭まった。


 それもそのはずだ。俺たちの攻撃は全て、あの二人を起点としていた。田辺は中盤でのボールキープ能力が高く、周りも良く見えているから誰かが詰まってもすぐに動き出してポスト役になってくれる。寛司だってさっきの正面突破は例外として、裏への飛び出しやドリブルでの突破、一段下がってのキープ役など、とにかく万能な攻撃の引き出しで攻撃を繋いでいた。


 当然、二人の攻撃を対策されることは分かっていたからそれ以外の奴らで攻められるよう練習はしてきたものの。


「っし取った! 一気に行くぞ!!」


「お前ら戻れ!! 早くッッ!!!」


「あっ……」


 経験者の二人を失った今、俺たちはあまりに非力だった。


 ガシャァッ……。


 試合時間三分四十秒。同点弾が炸裂する。


 見事なほどにディフェンスを突破されてのゴールだった。俺たち中盤がボールを奪われ、寛司たちが数で押さえつけられディフェンスに戻れなくなった状態でのそれを止められる者は、誰も残ってはいなかった。


「お前ら何やってんだ! 俺らに四人付いてんだから数では勝ってたろ!!」


「るっせぇな!! サッカー部を俺らが止めれるわけねぇだろ!! お前らこそさっさと戻ってこいよ!!」


「なっ……」


 寛司のスーパーゴールから一転。ピリついた険悪な空気が俺たちを包み込む。


 自分が活躍できない現状に苛立っている田辺と、自分は精一杯やっているのにディフェンスに参加していなかった奴に文句を言われて反論する奴ら。


 お互い、自身が正しいと言い張るこの罵り合いは……平行線にしかなり得なかった。


「ごめん、勇士。俺も戻りたかったんだけど間に合わなかった……」


「いや、お前は悪くない。マジで誰も悪くなかった……と思う」


 まずいな。点を決められたことがじゃない。たった一点の失点でムードが悪くなったことが、だ。


 実際に相手チームは寛司に決められても俺たちみたいにチーム内が険悪になることはなかった。それどころかむしろ団結力は強まり、実際に今、それが花開いて同点弾を決めて見せた。


 俺たちも……こんな言い争いをしている場合ではない。


「勇士? どうかしたの? ずっと考え込んで……」


「……いや。案外ツキが回ってきたかもしれないなって」


「? それってどういう……」


 この一ヶ月、由那にかっこつけるために練習を続けてきた。


 けど、それでも俺は田辺や寛司には追いつけていない。シュートという特化して練習したステータスでさえ、まだまだ未熟だ。


(そんな、俺でも……)


「田辺、ちょっといいか」


「あ゛あ!? お前もコイツらみたいに俺らが悪いって言いたいのかよ!?」


「違う。というか誰が悪いとかそういうの、俺はマジでどうでもいいから」


「っ……だったら、なんだよ」


 今、このチームに求められているのは寛司、田辺に次ぐ誰か。攻撃の起点として第三の刃になり得る存在だ。


 幸い俺は相手チームの誰からも警戒されてない。きっとその役割を担うには最適の人材になれる。




「俺を使ってくれ。常に周りが見えるお前なら、絶対使いこなしてくれる。そう思ったから来たんだ」

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