389話 先制点
389話 先制点
試合が始まる。
グラウンドに出て観る立場から観られる立場へと変わった俺たちは、コートの上で円陣を組んでいた。
前半組のメンバーに変更は無い。強いて言うなら寛司と田辺といううちの経験者組二人がどちらもフォワードを務めることになり、超攻撃的な陣営へと変化を遂げたことだろうか。
なにせ試合時間はたったの五分だ。短い時間に合わせハーフコートで行われる試合だとは言っても、守りに徹しているのでは良くて引き分け。逆に常に点の取り合いなバスケなんかとは違い、一点のリードが大きな勝利への一歩に直結する。
「お前ら、絶対勝つぞォォォ!!」
「「「「「おぉぉぉおおおっ!!!」」」」」
田辺曰く。敵のクラスにはサッカー部が四人。今見たところだと前半組にはそのうち二人が振り分けられており、一人はミッドフィルダーでもう一人はキーパーだ。
フィールドに二人いないことを喜ぶべきか……点を取ることがかなり難しくなったことを悲しむべきか。これがプラスに働くのかマイナスに働くのかは試合が始まってみないことには分からない。
「がんばれーっ! ゆーしーっ!!」
「が、がんばれ……寛司っ!」
「やれぇっ!! 神沢君、渡辺君!! 相手クラス全員ぶっ◯しちまえぇ!!」
「が、がんばってください!!」
試合のホイッスルが鳴る。
ボールはこちらチームから。寛司がセンターラインからバックパスをし、ボールがセンターサークルを出たところで全員が動き出す。
「う、うちのクラスの可愛い子全員、お前ら二人の応援だと……テメェら! 彼女いるんだからせめて他の子は譲れや!!」
「えぇ……そんなこと言われても。田辺君だって点取ったらキャーキャー言ってもらえるんじゃない?」
「っ……! ぜってぇ取る!!」
おぉ、男子全員の俺たちへのヘイトと狂気にも近しい点への執着は凄まじいな。俺も負けてられないぞ。
「勇士、もっとラインあげて行くよ! まずは一点!」
「おう!」
流石は経験者。フォワードながらに中盤でのボール回しに加わる二人とともに、俺たちのチームはボールを失うことなくゆっくりと前線へ進んでいく。
さて、俺はどうやって点を取るか。寛司から教わった″秘策″はまだ出すとかじゃない。まだ、ここでは目立たないようパス回しを続けよう。
中田さんのバスケスタイルのように全員を抜き去ることができたなら、それが一番良い。パスをほとんど経由しない分攻撃に時間がかかることも無いからな。
しかし、残念ながらたったの一ヶ月ではそんな力量は身に付かなかった。だから俺が練習したことはたったの一つだけ。それを使うことにのみ、この五分間を使うと決めている。
「お前ら、田辺は通すなよ! あと渡辺も! 何してくるか分からねえからな!!」
「ちっ、流石にマーク強ぇな。裏に抜けて一発……ってのは厳しそうだ」
「だね。なら正面突破一択でしょ」
「は!? ちょ、おまっーーーー」
刹那、寛司が駆ける。
俺たちのクラスの経験者が誰なのかは全てバレていた。田辺も、渡辺も。中田さんがされていたように何人ものマークを付けられて警戒されている。
しかし、アイツはひるまない。
「好きな人に見られてるからね。悪いけど、かっこつけさせてもらおうかな」
華麗なダブルタッチで股を抜く。
「なっ!?」
アウトサイドとインサイドという脚の両面を使ったフェイクタッチで、更に二人。
「う、上手すぎだろ……」
「やべぇ、全然止まらねぇぞコイツ!!」
そして最後に立ち塞がったサッカー部ディフェンスをいとも簡単にルーレットフェイントで抜き去ってーーーー
「嘘、だろ……コイツ、もうサッカーはやってなかったんじゃなかったのか……?」
ガシャァッ。
寛司の脚から放たれた超速スピードのシュートは、キーパーの虚を突き、反応させることもなく。ゴール右上のネットへと突き刺さっていた。




