388話 やる気と理由
388話 やる気と理由
「よーしよしよし! 凄いぞぉ! 輝いてたぞお!!」
「えへへ、でへへへへっ。もっと撫でてぇ。いっぱいいっぱい撫でてぇ〜♡』
前半戦が終わり、緊張の後半戦も終わって。前半の九点リードのおかげで有利に進んだ試合は、最終的に十一対四で大勝の結果となった。
すでに他のクラスの試合が始まっているのだが、そんなものを眺める気などさらさら無く。俺は満面の笑みで胸に飛び込んできた由那を一心不乱に撫で回す。
「お疲れ様、有美。めちゃくちゃかっこよかったよ」
「ん……ありがと」
そしてそんな俺たちを背に。間違いなくこの試合のMVPを飾るに相応しい活躍を見せつけた中田さんも、すぐに寛司の元へと戻り、頭をよしよしされて満更でもない表情を浮かべている。きっと、こうしてもらうために練習を頑張ったんだろうな。
「それにしても、まさか本当に由那がシュート決めるなんてなぁ。マジで凄かった。びっくりしたわ」
「ふふ、彼氏さんからの応援が私にパワーをくれたのです。ありがと、ゆーし。観客席からの声援、ちゃんと聞こえてたよ!」
「そっか。ならよかった」
つい気持ちが高揚して出してしまった声だったが、由那の力になったのならその価値はあった。後から周りにクスクス笑われた甲斐もあったってものだ。
「在原さんもお疲れ様。凄かったな、あのディフェンス」
「ね〜っ! 私絶対やられたと思ったもん!」
「はい! 薫さんは凄かったです! 影のMVPです!!」
「へ、へへ。そうかぁ? まあそう言われて悪い気はしねぇなぁ」
点を決めた中田さん、篠崎さん、由那だけが凄かった訳ではない。
在原さんは確実にカウンターで点を返されるところだったあの場面でスーパーディフェンスを見せたし、蘭原さんだって中田さんのデコイ役をこなしただけではなく、由那との連携で中盤としての動きをしっかりできていたように思える。
凄くベタな言い方になってしまうが、全員の力が合わさったからこその大勝だった。スポーツの試合を観戦してここまで心が震えたのはいつぶりか。とにかく、とても良いものを見せてもらったな。
「俺も、負けてられないな」
「えへへ、彼氏さんのかっこいいところいっぱい見せてね! 私もゆーしみたいに声出して応援するから!」
「おっ。頼むぞ〜。彼女さんに全力で応援してもらえたら百人力だ」
わしゃわしゃと充電がてらしばらく由那と戯れ、しばらく。由那たちの二回戦を前に、俺たちの試合の時間が訪れる。
(絶対に点を取る。由那はあれだけ凄いもんを見せてくれたんだ。……応えないわけにはいかないだろ)
寛司との特訓でやれることはやり切った。
俺の出場できる時間はたったの五分。バスケと違いサッカーで点を取ることはより難しいことなど承知の上で、それでも。
「行こうか、勇士。成果を見せる時だよ」
「おう」
彼女さんが見ている。由那の彼氏として見られる。高いハードルを乗り越えるためのやる気と理由は、充分すぎるほどに揃っていた。




