377話 クラス対抗競技
377話 クラス対抗競技
「ではこれより、一年三組男子陣営作戦会議を始める。集まれ皆の衆!!」
体育祭が行われるのは10月初週ーーーーすなわち約一ヶ月後だ。
もともと男子連中はかなり意欲的だったが、それに加えて昨日、この高校に伝統として残り続けている応援団部からの挨拶回りを受けたことで一気にクラスは体育祭ムードになった。
そしてその手始めとしてやる気の矛先が向いたのが、クラス対抗競技である。
どうやらこの一ヶ月は体育の時間が全てサッカーになるらしく、四組と合同で体育をしていた俺たちはいきなり練習試合をすることとなった。
「男子は二十人いるからほぼ全員が前後半で途中交代だ。そして俺たちのクラスにサッカー部は三人。あと渡辺が元サッカー部らしいから、その四人を二人ずつに分けて使う。交代せずフル出場する二人は追々決めるとして、とりあえずポジション決めていくぞ」
サッカー部所属らしい奴が仕切る中。後ろの方で適当に内容を聞き流していたのだが……え、今なんて言った?
元サッカー部の渡辺、って。寛司、まさかの経験者かよ。
「よし、じゃあ一旦こんな感じで。前半組行ってこい!」
「だって。じゃあ行こっか、勇士」
「え゛っ。俺前半かよ」
「うん。俺がフォワードで勇士は三人いるボランチのうちの一人。あ、ボランチっていうのは真ん中のミッドフィルダーのことね」
「はあ……」
言われるがまま、流されるがままに。俺はサッカー部のやつと密接したポジションへと着く。
どうやら前半組の経験者はフォワードとミッドフィルダーという、前衛寄りのポジションに固まったらしい。
「オイ渡辺え! お前やったことあるポジションそこだけだっつってたからとりあえず置いたけど、使えなさそうなら俺がいくからな!」
「あはは、期待に応えられるよう頑張るよ」
なんかピリピリしてるなあ、とどこか他人事でいると。渡辺に食ってかかっていたサッカー部の田辺は一瞬横にいる俺にも睨みを効かせて、言う。
「お前らにばっかり、美味しいところは持って行かせねえ。オイ神沢あ……俺も今回の体育祭でテメエらみたいにリア充にのし上がるからな。むしろ蹴落としてやるよ!!」
「え、ええ……」
怖い。ピリつき方が攻撃的すぎる。心強い味方のはずなのにもはや敵にしか見えないぞ。
のし上がるとか蹴落とすとか、このサッカーにどれだけの想いを乗せているのかは知らないが、生憎と未経験者の俺にはあまりできることがない。
変に目立たず穏便に、だ。勝つも負けるも全部コイツらに任せよう。とりあえず俺は悪目立ちだけはしないようにして、クラスが勝てたらラッキーくらいのつもりで。うん、それくらいがちょうどいい。
「じゃあ、練習試合始めまーす」
ピーッ。ホイッスルとともに、俺たち三組ボールから試合はスタートした。
「勇士!」
「神沢、こっち繋げ!」
「おう」
そして俺は、すぐに気付かされることになる。
ーーーー未経験者がサッカーという競技において悪目立ちしないことが、どれだけ難しいのかということを。




