376話 種目決め2
376話 種目決め2
「うう……ぐすんっ。怖かったよお……」
「おーうよしよし。もう大丈夫だぞお」
ひしっ。結局すんでのところで寛司が止めに入ったことにより事なきを得た由那は、安息の地を求めるかのように俺の隣へ来て身を寄せる。
「はい、どうどう。大きくなんてなくても俺はありのままの有美が好きだからね。気にすることなんかないよ」
「……うん」
まるで猛獣使いだなあれは。いとも簡単に中田さんの暴走を止めてしまった。流石は寛司だ。
さて。それにしても、改めて出場する競技はどうしようか。一応自由に二個選んでいいとのことだが、人が偏りすぎるとじゃんけんになる可能性もあるらしい。ここは慎重に選ばないと。
「なあ、寛司はどの種目出るかもう決めてるのか? まあお前ならどれ出ても活躍できそうだからあんま変わらんかもだけど」
「俺? うーん、そうだな……。とりあえずは百メートル走とリレーのどれかかなって思ってるよ。障害物競争とかはなんか難しそうだし」
「難しそう……ね」
そうか、寛司みたいな奴なら俺とは真逆の思考で単縦な足の速さで順位が決まる競技を選ぶんだな。
俺は障害物競争、借り物競走、二人三脚の三つを最有力候補として挙げたが、これは単純に足が速い奴相手でもあまり惨めな負け方はしないだろうと踏んでのことだ。
ペアとの歩調が合わなかったとか、お題が悪くて見つけるのに時間がかかったとか。言い訳しやすいものを本能で選んでいた。なんかもうここまで考え方に差があると逆に清々しい。
「そういう勇士は何にするつもりなの?」
「お前が選ばなかったあと三つだよ。リレーとか百メートル走に出れるほど運動神経あるわけじゃないしな」
「じゃあ私と一緒に二人三脚やろーよ! ゆーしと肩を並べての共同作業……へへ、へへへっ……」
「あ、あの、二人三脚は男女別、です……」
「ひなちゃんいつの間に!? というかそれ本当!?」
「はい。残念ながら……」
ま、マジか。よかった速攻で了承しなくて。全然やりたいと思ってしまっていたから蘭原さんに言われなければ二つ返事でOKしてたぞ。
まあでも、当然と言えば当然か。男女でペアを組んでの二人三脚って正直全く歩幅も体格も合わないから走りづらそうだしな。
(てか、ちょっと待てよ? もし俺が二人三脚を選んだらこのクラスの男子のうちの誰かと組まされるわけで。しかもそこに寛司はいないってなると……)
あ、ダメだ。ただでさえ常日頃から恨まれてる奴と肩を組んで二人三脚なんて自殺行為すぎる。マジでなにされるか分からないしやめとこう……。
となると、だ。必然的に俺の出る競技は二つに絞られる。
「じゃあ俺は障害物競争と借り物競走だな。本音言うとそれですら出たくないけど」
「ま、割と神沢君らしいチョイスじゃねえか? 私はとりあえずひなちゃんと二人三脚出るのが確定で……まああと一個は借り物競走が楽そうか」
俺、由那、蘭原さん、在原さんの運動苦手組は簡単に出場競技が決まり、早速四人で希望競技を書くべく黒板へと向かう。
意外にも残ったバカップルは選択肢が多すぎるゆえかまだ決まらない様子で、じっと競技一覧を見つめていた。
「有美はどれに出るの?」
「わ、私は……」
赤組と白組に分かれて競い合う体育祭では、それぞれすべての競技において順位ごとにポイントが定められており、順位が高ければ高いほど高ポイントを得られる。
うちのクラスの運動能力最強二人組はいったいどの競技を選ぶのか……クラス中が密かに、二人の選択を見守っていた。




