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374話 二学期の魔物

374話 二学期の魔物



「ふい〜。もう外真っ暗になっちゃったねえ」


「言ってる間にもう八時前だもんな。お疲れさん」


「えへへ、ゆーしが手伝ってくれたおかげで思ってたよりも早く終わったね。これで今晩はイチャイチャし放題!」


 本当、量が量なだけにもっとかかるかと思ったが、由那自身の頑張りもあってかなり早く帰路に着くことができた。


 ちなみに在原さんと蘭原さんももうあのファミレスにはいない。中田さんと寛司に任せていた英作文と俺たちに任せていた読書感想文が終わり、あとはひたすら書き取りと丸写しをするフェーズに入ったからである。ここから先は在原さんの家で二人、一晩かけて宿題を終わらせにかかるそうだ。まああの様子で頑張れば明日には充分間に合わせることができるだろう。


「は〜あ。なんかいよいよ新学期が始まっちゃったって感じだよねえ。明日からは普通に授業でしょ? やだなあ」


「本当にな。二学期は秋休みが無い分長いし。年末まで長期の休みが無いとかキツイわ」


 夏休みという高校生活で最も長い長期休みを終えた今、迫り来る二学期に対してはもはや敵が襲ってくるような感覚だ。


 由那と布団の中でポカポカなまま昼まで惰眠を貪ることも、次の日のことを考えずに夜中までゲームをすることもできない。土日休みにならできるだろうが、そこに至るまで五日間も連続で朝から登校しなければいけないとは。


 今のような半同棲生活をする前はそれでもよかった。朝早く起きて由那を迎え入れ、登校するまでイチャイチャする。その日課が楽しみで頑張れていたが、今はそんなことをしなくてもずっと一緒にいられる。起きた瞬間にはもう隣にいてくれる彼女さんと二人きりでいられる家の中の時間が学校によって減ってしまうのは、苦痛以外の何者でもなかった。


「あ、でも楽しいこともあるよ! ほら、確かあれって二学期だったよね?」


「あれ……?」


 何のことだろうか。


 二学期に俺たちを待ち受けているもの。パッと浮かんだのは一学期にもあった定期テストだが、これは楽しいことではない。校外学習は年に一度のはずだからもう一年生の間に開催されることは無いはずだ。


「え〜? 本当に浮かばないの〜?」


「そうだなあ。辛いことなら浮かぶんだけどな。一ヶ月ちょっとしたらまたテストがやってくることとか」


「楽しいことって言ってるでしょ! ……いや、もしかしたらゆーしはそんなに好きじゃない? 小学生の時は楽しそうに駆け回ってた気がするけど……」


「駆け回ってた? ……ああ、あれか」


「わあお。露骨に嫌な顔お」


「いや、だってなあ。確かに昔は楽しみにしてたかもしんないけど、今は流石にな。醜態晒すだけの自信あるし」


 それは言わば陽キャの祭典。小学生の頃は確かにテンションが上がったものだし、当日も純粋に楽しめた。


 しかし中学に上がってからはそうはいかない。


 あの祭りで得をするのはいつだって寛司のような人間だけだ。俺みたいな奴はせめて周りに迷惑をかけないよう端っこで蹲ってるしか……


「はは。ははははは……」


「わーっ!? ちょ、ゆーしから負のオーラが!?」




 二学期最大の。それでいて俺にとってどの学校行事よりも苦痛なそれは、俺を嘲笑うかのように。既に背後へと迫っているのであった。

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