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373話 歴戦の絆

373話 歴戦の絆



 約二時間が経過した。


 時刻は午後6時過ぎ。ここで晩御飯を済ませた俺たちと違いこれから家で一緒に食べるのであろうバカップル一号さんが戦線離脱の準備を始めている。


「じゃ、私たちはそろそろ行くから。神沢君、ひなちゃんは薫のおもりよろしくね?」


「は、はいっ!」


「いやおもりて」


 漢字の書き取りがひと段落してぐったりとしている在原さんを見てくすくす笑みをこぼしながら、言う。


「じゃあね薫。英作文は翻訳サイト使ってるけど、一応軽く言い回し変えて編集してあるから。LIMEに送っとく」


「おおう……。ありがてえ」

 

 ああ、在原さん溶けかけてる。


 当然か。漢字の書き取りは俺も夏休み中にやったわけだが、あれはなかなかキツかった。


 ひたすらに同じことを繰り返す。この行為に対してしんどさを覚えるのは勿論のこと、何よりやる気を削がれるのはその課題に対する″意味の無さ″を感じてしまうことだ。


 例えば数学のテキストで問題を解くことや英語の単語を覚えることには意味があると思う。まあ数学に関してはこの先の人生で本当に必要なのかと思ってしまう点は置いておいても、どちみちテストやら受験やらで使う機会はいくらでも出てくるわけだからな。


 けど……漢字の書き取りとなると、なんだか無駄なことに時間を割いている気がして仕方ない。漢字を覚えることそのものには意味があったとしても、何故それを何回も単純作業のように書きまくらなければならないのか。由那ももしこれが字が汚いという理由で返却されていたら多分、今頃ヒーヒー言いながら同じようように溶けていたことだろう。


「……」


「? 有美、どうかしたの?」


「いや? 別に」


 くたびれた様子の在原さんに一声かけ、二人は店内へと消えていく。


 夏だからまだまだ日が落ちる気配はないが、時間は刻一刻と過ぎていっている。母さんが何か言ってくるだろうし、俺たちもそろそろ帰るための算段をつけておかないと。


 なんて、そんなことを考えながらスマホのメモ機能に読書感想文としての締めの部分を入力していると。ぼろんぽろん、と五度ほど。在原さんのスマホが鳴る。


 多分中田さんからの画像添付だろう。にしても英作文ってだけにしては多い気がするが……


「有美さんからですか?」


「んお? みたいだけど……ぬほお!?」


「えっ!? ど、どうかしたんですか?」


「くぬお……おおおう……」


 なにやら悶絶しながら俺たちに見せてきたのは、予想通りの中田さんとのトーク画面。


 ただ、やはり通知数と英作文のスクショの枚数はあっていなくて。


『途中で帰っちゃってごめんね。どうせアンタのことだからひなちゃんの解答丸写しすると思うし、これあげる。頑張ってね』


 というメッセージと共に、現代文と数学のテキストの解答写真が送られて来ていた。


 古典、社会なんかと違い、現代文と数学には文章で答える問題、途中式をちゃんと書かなければいけない問題など、人の解答をただ写すわけにはいかない問題が多数存在する。


 ただでさえ全教科未提出で目立ってしまっているのだ。誰かの解答をまるパクりするのは疑われていて当然であり、だからこそ実際に読書感想文と英作文という丸写しでどうにもならないところを俺たちに任せたわけで。


 蘭原さんの答えとは違うものを所々混ぜながらという対策法は時間も労力もある程度必要になってくる。しかし写せる解答が二種類あれば話は別。これで更なる作業の効率化が見込めることだろう。


「ふふっ。有美ちゃんってツンツンしてること多いけど、なんやかんやでやっぱり薫ちゃんには甘いよね」


「昔から、な。ったく、ほんと頭上がんねえよ」


 何がすごいって、宿題はもう提出した後なのだから、今更さっきの写真を撮ることはできない。つまり中田さんはこうなることを予期し、既に撮影をし終えていたということだ。


 最初から写真をあげず、こうして別れてから送ってくるところは素直じゃないなと思う。




 けど、それ以上に。在原さんと長い付き合いだからこその付き合い方というか。歴戦の絆のようなものを見せつけられたような。そんな感じがした。

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