370話 問題児たち
370話 問題児たち
「お前らなぁ……いい加減にしろよ?」
「あ、あはは……」
「ひゅ〜ひゅひゅ〜」
トントン、トントントンッ。キャスター付きの椅子に腰掛けながら眉間に皺を寄せる先生は、机に指を打ちつけながらため息をこぼす。
こうして薫ちゃんと一緒に呼び出されるのは中間テストの結果が知らされた時以来か。先生、誰が見ても分かるくらい怒ってるなぁ……。
「まず江口。お前、ほぼ全教科の先生から苦情きてんぞ。お前これ、私の出した課題見ても分かるけどよ。字、汚過ぎだろ。もはや解読不可能なレベルの殴り書きじゃねぇか」
「い、いやぁそれは。色々とワケがありまして……」
「私にはそのワケとやらが大急ぎで誰かの────いや、もっと言えば神沢の解答を写しまくりましたっていう言い訳にしか聞こえないんだが?」
「……ごめんなしゃい」
結局夏休みが終わるまでの一週間、私はほとんど宿題に手をつけなかった。
読書感想文だけは終わらせたものの、残りのやつは前日にやればなんとかなるかなって。けど結局その前日すらゆーしとごろごろイチャイチャし過ぎたせいで寝落ちし、始業式当日の朝に死ぬ気で写させてもらった結果がこれだ。
見せられた自分の字はもはや人間の手で書かれたものとは思えないほど汚く、私自身ですら解読できる自信が無い。一応やってはいるから何人かの先生からは温情の合格を貰えたものの、半分ほどはちゃんと書き直して再提出しろと湯原先生を介して私に課題が返ってきた。おかげでこれから書いた文字を消して書き直すという究極に面倒くさい作業に追われることになってしまった。
「まあいい。江口はまだいいんだ。一応出してはいるからな」
「え……?」
「オイてめぇ薫。全教科未提出って……どういうことだ?」
「な、なななんのことだか分からないにゃあ。あ、きっとあれだべ。これは校長の企てた陰謀なんだ。だから出したはずの課題が姿を消して────」
「大人ナメんなブチ◯すぞ」
ぜ、全教科未提出? 薫ちゃん、いくらなんでもそれは肝が座りすぎてるよ……。
私も同じ穴のムジナかもしれないけれど、流石に当日は焦ったし最大限の努力はした。
けどなんだろう、薫ちゃんのこの溢れんばかりの余裕は。おかげで先生の眉間のシワの数がどんどん増えて放つオーラがドス黒くなっていってる。正直結構怖い。
「とりあえず江口は明日中に各先生に再提出な。薫、てめぇも明日中だ。間に合わなかった教科一個につき一本折る」
「んな殺生な!? い、いいいくらなんでも明日中は無理だって!!」
「やらなかったお前が悪い。徹夜してでも死ぬ気でやれ」
「ぐぬぬぬ……」
薫ちゃん、言われなかったらこのまま全教科未提出で終わらせる気だったのかな。多分そのことを先生はなんとなく察しているからここまで言うのだろう。
「はぁ……ったくよ。テストの時もそうだったけど、自分のクラスの奴の不祥事は全部私に来んの。私生活でもそうだし、部活でも成績面でもそう。まあ今のところこうやって呼び出したのはお前ら二人だけだけどな」
「な、なんかすみません」
「そう思うなら最低限は頑張ってくれ。あと薫はせめて悪びれろ」
「ぐぬおぉぉっ。奈美ねぇの鬼! せめて期限一週間にしろぉ!!」
「学校で奈美ねぇはやめろっつってんだろ!! 湯原先生って呼べやぁ!!」
「し、失礼しまぁす……」
なんだか薫ちゃんへの説教だけはまだまだ続きそうな気配がしたので、私は隙を見てそっと職員室を抜け出す。
私の方は頑張ればなんとか明日中に再提出できそうだ。湯原先生にあまり負担をかけないように、早めに終わらせよう。




