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閑話 大人の呑み4

閑話 大人の呑み会4



『ヒック。就活もうやら。なんでもいいからサクッとなれる職業持ってこいやぁ!!』


 あれは確か大学四年生の春。なんとなくダラダラと学校生活を過ごし、就活も何箇所か面接は受けてみたものの全落ち。ふらっと入った個人経営の居酒屋で一人ヤケ酒をかっくらっていた時のことだ。


『嬢ちゃん就活生かい。確かに言われてみればスーツ……着てたみたいだな。もう跡形もないけど』


『るせぇ! 私はもう営業も事務も会計もサービス業もなーんもやりたくねぇの! オイおっさん、なんかいい職業教えろや!!』


 そこで初対面だったその店の店長さんに掴みかかり、えげつないダル絡みと共に思考を丸投げした。


 実際もうどの企業にも入る気が起きなかったし、ニートだって視野に入っているくらいには疲れていたのだ。


 だがそこで、おっさんから一つの選択肢が舞い降りてくる。


『じゃ、じゃあ学校とか塾の先生とかはどうだ? さっき言ったどれにも当てはまらねえし、頭さえ良ければ多分なれるだろ!』


『……アリだな』


「こうして私は教師を志したのでした。ガキは嫌いなのでできるだけ相手する生徒の年齢が高い高校を思い浮かべ、速攻で教職取ってそれとなく実習をこなし、晴れて高校教師へと就職したのです。めでたしめでたし」


「……つまり酒の勢いとその場のノリ、ってことすか?」


「ざっつおーる!!」


 あー、後輩の私を見る目がすさんでいくぅ。


 いや、うん。冷静に考えて大見栄切って話せる過去編ではなかったよな。就活生のためにならないなんてレベルの問題じゃない。もはや反面教師にしなきゃいけないレベルに酷い話だ。


「そのエピソードでよくあの啖呵が切れましたねぇ。現役就活生の前でなんて話するんすか」


「は、はは……。でもあれだぞ? 実習生の時はこれでも苦労したんだ。高校生のガキどもって私が思ってる三倍くらいバカでなぁ。私の頭の中で簡潔に理解できるものをどう揉みほぐして伝えたらいいものかと……」


「うわ、頭良い人独特の悩みだぁ。くそぅ、私には社交性もコミュ力もあるけど先輩の唯一の取り柄な頭脳だけは無い……なんかクソエピソードだったはずなのに負けた気がするっす!!」


「誰の唯一の取り柄が頭脳だと? それ以外全部無いってかコラ」


「……あります?」


「…………」


 ぐうの音も出なかった。


 ま、まあこれでも一応はちゃんと就職って形をとって社会人やれてる訳だし? 自分の金で一人暮らしまでできてるんだからまだマシな方だよな。うん。そうだと信じたい。


「私、壊滅的にやりたい事が無いんすよねぇ。だから就活にも身が入らないっていうか。金稼ぐためだけに社会の歯車になるの、モチベ上がらなくないですか?」


「んぉ? 凄いなお前。就活時代の私と同じこと考えてるよ」


 さて、少し真面目な話が始まりそうな予感がするので一旦お酒を呑むのをやめ、二杯の水を頼んでからタバコに火を付ける。


 多分、単純に私と呑みたいという気持ちもあったのだろうが、今日私がここに呼ばれた大きな理由の一つがこれなのだろう。


 荒野の就活相談。こんな話を聞かされる年代になったというのが嬉しくもあり悲しくもある。




「先輩は、そんなノリで先生になって。……後悔とかしなかったんすか?」

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