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閑話 大人の呑み会2

閑話 大人の呑み会2



 荒野が予約してくれていた店は、「一つ橋」という名の焼き鳥屋さんだった。


 駅から徒歩十分、呑み屋街として有名なこの街で様々な店のキャッチを華麗にスルーしてやって来たそこは、地下一階の細々とした所謂「隠れた名店」という風貌を醸し出している。


 何故もっと大きい居酒屋とかにしなかったのだろうと思ったが、よくよく考えてみるとそういう店では店内禁煙の風潮が広まっており、吸うためにはわざわざ喫煙室まで行かなければならない。私がちゃんと席で吸える店にしてくれと言ったのが原因だったわけか。


「いらっしゃいませ。ご予約はされてますか?」


「は〜い。二人で予約してた荒野ですっ」


「荒野様ですね。お待ちしておりました。ではお席へご案内いたします」


 ってあれ? こういう所って普通貫禄のあるジジイがタメ語で接客してくるもんなんじゃないのか? 


 店内もヤニの匂いがしているところを除けば結構綺麗だ。席の数も意外と多いし、しかも一つ一つの席ごとにちゃんと仕切りまである。てっきりカウンター席に案内されるものかと。


「先輩がどうしてもって言うんでちゃんと席で吸える店にしたんすよ〜? ったく、これだからヤニカスは仕方ないっすねぇ」


「お、おぉ。って、速攻で一本めに火をつけながらそんなこと言われても響かないんだが」


「へへっ。残念ながら私も同類なもんで」


 カチッ、シュボッ。あれだけ文句を言っていたにも関わらず結局未だ使っているらしいオイルライターで火をつけると、ゆっくりと白い息を吐いて一服。私もそれに便乗して一本目を咥えると、百均のライターで先端を燃やした。


「ぷへぇ〜。先輩の吸ってるそれ、濃すぎてヤニクラ起こしません? 確かタール数十四ミリっすよね」


「ヤニクラはなったことないな。ただ本数吸っていくたびにどんどん味が濃いのが欲しくなって。気づいたらこれよ」


 煙草にはタールという有害物質が入っており、それの量で味の濃さが変わったり、身体の弱い奴だとヤニクラという頭がクラクラするような現象に襲われることがある。


 大体一般的なのは八ミリから十ミリあたりで、私も昔はよくそこら辺のタール帯な煙草を吸っていたのだが。タール数が上がると一本あたりの満足量が変わり、結果的に吸う本数が多少なりとも減るので節約の意味も込めて十四ミリのを吸っていたりする。


「てかそれ言うならお前もだろ。十二ミリって充分強い部類に入るからな」


「気のせいっすよぉ。まあ学校の友達からはオッサンかよってよくツッコまれますけど」


「そりゃそうだ。大学生でそのタール数なら将来は立派なヤニカスになれるぞ」


「えへへ〜。先輩と同じ銘柄吸えるように頑張るっす」


「なんじゃそりゃ」


 にへぇ、と緩い笑いを投げかけてくる後輩に思わず笑みを漏らしつつ、ポリポリと頭を掻きながらメニュー表を眺める。


 最初はやはりビールからだろうか。焼き鳥は……特に部位のこだわりとかは無いからこのおすすめ盛り合わせとかいうやつが良いかもな。


「先輩何呑みます〜? 私はとりあえず生のジョッキにするつもりなんすけど」


「私も同じだな。食いもんはどうするよ」


「焼き鳥の盛り合わせでいいんじゃないすか? あとは適当に枝豆だのポテトだの、つまみになりそうなやつで」


「そうだな。っと、店員さん呼ぶやつは……」


「ここボタンじゃないっすよ。すみませ〜ん! 注文お願いしま〜す!」


 やっぱりコイツといるのは楽だな。なんというかこう、全てのやり取りがスムーズだ。学校で他の先生達と喋る時みたいに気を使う必要が無いし、荒野が異性じゃないということもあって変な下心を向けられることもない。付き合いで言えばそう長いものではないんだが、薫といる時と同じくらいの気楽さでいられる。


「さ、今日は呑んで食って吸って、思う存分楽しんじゃいましょうね。最悪ぶっ倒れたら私の家にお持ち帰りしてあげるっすよ。まあその時には私も意識無いかもしれないっすけど」


「はは、どんな朝チュンだよそれ」


 なんともまあ適当なことを言う奴だ。でも、適当だからこそいい。



 こういうのを適当に言い切れる奴だからこそ、一緒にいて居心地が良いんだろうしな。

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