367話 夏休みの魔物
367話 夏休みの魔物
由那の肌に残っていた日焼けも段々と消えていき、気づけば元の真っ白な肌に戻った頃。俺たちの残り夏休みがあと一週間を切っていた。
「は〜ぁ。夏休みもあとちょっとかぁ。もっとお家でゆーしとのんびりイチャイチャしてたいのになぁ〜」
「もう充分ぐだぐだしただろぉ。遊びにも行ったし、割と充実した夏休みだったと思うけどな」
夏休み初日から同棲が始まり、毎日泊まれるわけではないものの週のうち半分以上を朝から晩まで一緒に過ごした。二人で何度も遊びに行ったし、在原さん達と泊まりがけの旅行もできた。高校生活はまだ一年目だというのに、正直この後にあと二回夏休みがあったところで今回のを超えられるとは思えないくらいに楽しい時間を過ごすことができたと自負している。
「ま、残り時間はゆったり過ごすか。特に出かける予定も無いし、クーラー効かせた部屋でサクッと宿題も終わらせて────」
「……宿題?」
「いやなんでそこで首傾げるんだよ。当然だろ、あとちょっとで夏休み終わりなんだからさっさとやらないと」
確かあと残っていたのは数学のテキストが少しと英語のプリントだけだ。量的に言えば数時間もあれば充分終わる量だろう。
「しゅ、宿題って……どれくらいあったっけ?」
「ん? どれくらいって、まあいっぱいあったな。読書感想文に、各教科のテキストやらプリントも」
「……」
あれ、そういえば由那が宿題やってるところ見てないな。
俺はこの部屋でたまに気が向いた時進めていたが、その間もコイツはベッドですやすや眠っていたり俺の横にくっついてごろごろ喉を鳴らしていたり。思い返せば宿題はおろかペンを握っている姿すら……
「どうしよ。一個もやってない……」
「え゛っ」
「うわぁぁぁん! どうしよ、まだテキストに名前すら書いてないよ!? ねえゆーしは!? ゆーしだって私と一緒に遊び三昧だったんだから同じ感じだよね!?」
「い、いや俺はコツコツやってたからな。頑張れば今日で終わるくらいの量しか残ってないけど」
「嘘……え? ほ、ほんとに? じゃあ宿題全くやってないの、私だけ……?」
「その通りです」
「あわ、あわわ……あわわわわわ……」
まさかもう終盤に差し掛かった夏休みにこんな爆弾を残していようとは。
夏休みという長期休暇に与えられる課題なだけあって、やはり宿題の量は膨大だ。各教科の先生から嫌がらせかと思うほどの量が出されている。すぐに終わらせることができたのは湯原先生が担当している古典くらいで、後のは一気にやるとなるとかなりの労力が必要になるだろう。
「ゆーしの裏切り者! なんで一人だけでやっちゃうのさぁ!!」
「い、いや裏切り者て。別に隠れてやってた訳じゃないだろ。俺が宿題してる時、隣に引っ付いて猫みたいに撫でられてごろごろ三昧だったのはどこの誰だろうな?」
「う゛ぅ。だってゆーしになでなでされながらごろごろするの、一番気持ちよかったんだもん……」
それはまあ光栄なことだけども。
とはいえあまり嘆いている時間は無さそうだ。問題に答えるタイプのテキスト系は最終手段として俺が答えを見せて写させればあまり苦労はしなさそうだが、読書感想文や英作文、漢字の書き取りなんかだとそうはいかない。
「よし、さっさと取りかかるぞ。前日に徹夜とかしなくても済むよう、少しでも早く終わらせないとな」
「やだ。宿題やだよぉ……ゆーしとごろごろイチャイチャしてたいよぉ……」
「ダメです。それはある程度区切りついてからな。ほら、さっさと家から諸々取ってこい」
「はぁい……」
まあ宿題のことを一回も聞かず甘やかし続けた俺も悪いしな。
今日からとことん、スケジュール管理してやるとするか。




