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364話 もぎゅむぎゅ

364話 もぎゅむぎゅ



 ざるそばなんて食べるのはいつぶりだろうか。


 別に嫌いとかそういうわけじゃない。むしろどっちかというと好きな方なのだが、なんだろうな。こう……選択肢に入らないのだ。


 例えば同じ麺類でラーメンやうどんは、外食やインスタントなどで猛烈に食べたくなる時がある。海の家で食べた焼きそばなんかもそうだ。


 しかしそばは、何故かそういう気持ちになることがない。「ああ、今そば食べたいな」ってならないのにいざ食べてみると不思議なくらい美味くて。不思議だ。


「ちゅるるっ。んまぁ〜。たまにはおそばもいいにぇえ」


「だなぁ。なんか夏って感じもするし」


「? 夏を感じるのってそうめんじゃない?」


「ああ、言われてみれば? けどなんかざるそばも夏に食べるものって感じあるんだよな。なんとなくだけど」


 空きっ腹に食べやすいそばが流し込まれていき、他愛もない話をしているとあっという間に麺が無くなっていく。気づくと麺は空っぽになっていて、おおよそ十分かそこらで昼ごはんは終わってしまった。


「んにゃ〜っ。お腹いっぱいになったら動く気無くなっちゃった。片付けとか色々やらなきゃいけないことはあるんだけどにゃあ」


「それなぁ。ま、ゆっくりやっていけばいいだろ。とりあえず夕方まではだらだらでもいいんじゃないか?」


「ふふっ、しっかりだらけるんだ。いけない彼氏さんだな〜♪」


 と、言いながらも。機嫌良くぴっとりひっついてきた由那は、そのままもう一度ベッドへ戻ろうとアピールをしてくる。お腹がいっぱいになったせいで満足感からかまた眠気が襲ってきたし、何よりメンタル的にもまだ何かをしようという気にはなれない。今はしっかりと疲れを取る目的も兼ねて彼女さんとごろごろイチャイチャをしておくべきだろう。


「まあでも、流石に着替えるくらいはしておくか。この服は汗掻いちゃってるしな」


「うえぇ。面倒臭いよぉ。もうこのまま寝ちゃいたいぃ……」


「んなこと言ったってなぁ。とりあえず由那は着替えなくてもいいかもだけど、俺の方はそうはいかないだろ。やっぱ汗臭くはなってるだろうし」


「えぇ? そうかなぁ」


 ひくひく、すんすんっ。俺の肩に乗せられた由那の小さな顔がゆっくりと動くと、鼻を服の生地に当てて匂いを嗅いでくる。普段でも自分の匂いを嗅がれるという行為にはやっぱりちょっと恥ずかしさがあって慣れない部分があるのだが、なんとなく今自分が臭いだろうと思っている状態だと余計にだった。由那に「臭い」なんて言われたら中々に傷つくぞ。


「これは……大好きな彼氏さんの匂いっ! えへへぇ、落ち着く……」


「うぉい。無理しなくっていいんだぞ」


「すぅぅぅぅぅうっ。はあぁぁぁぁぁ〜〜」


「ああ、無理なんてしてないわこれ。臭いと思ってる奴相手にできる吸い込み量じゃねえ」


「ね、着替えるならこの服私が着ていい? もしくは枕に巻いてくんくんしながら寝たいなぁ」


「やめてくださいそれは。いやほんと。せめて本体から嗅いでくださいよ」


「はぁ〜い。じゃあゆーしさんから直接嗅ぎまぁ〜す」


「ぬぐおっ。暑い暑い。もぎゅむぎゅするなぁ……」


 本体から直接、という言葉をそのまま行動に表すかのように、由那は俺の服の裾を上げると、腕にまとわりつきながら二の腕らへんを触って鼻を擦り当てる。


 実に幸せそうな顔だ。コイツ、もしかしなくとも匂いフェチな側面があるんじゃなかろうか。いつも息をするように俺のことを嗅いで吸ってくるし。



 まあ別に嫌というわけじゃないし。それに関しては一向にかまわないんだけれども。

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