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360話 新しい快楽

360話 新しい快楽



「あれ? 由那ちゃんだ。どしたのそんなところで」


「え゛っ……い、いやぁ。暑過ぎるからちょっと影で涼んでいこ〜、って! えへへ、ここなら二人きりでのんびりできるからっ」


「ふぅ〜ん?」


 息も絶え絶えに。二人して岩にもたれかかりながら休憩していたところ、バカップルと遭遇して由那は必死にその場の言い訳を作り上げる。


 スマホも時計も無かったからどれだけの時間繋がっていたのかは分からないが、少なくともこの二人がたっぷりイチャイチャし尽くして帰ってくるレベルの時間はずっとああしていたということだろう。


 始めは襲われてのスタートだったものの、結局俺も途中から押し倒したりして正直ノリノリだった。二人が来るのがあとちょっと早ければ、顔を真っ赤にして俺にキスと耳責めをされる由那を目撃されていたところだ。


「この暑さじゃ砂浜歩いてるだけでもヘトヘトになるもんね。確かにこの岩場、休憩にはちょうど良さそう」


「まぁ、な。休憩し過ぎで行こうと思ってた所には行けなかったけど」


「行こうと思ってた所?」


「和菓子屋さんだよ〜。なんかここら辺で結構有名な餡蜜のお店があるんだって。せっかくだから行きたかったんだけど……ゆーしとイチャイチャしてたら時間無くなっちゃった♡」


「あ、餡蜜屋!? それってもしかして……《くろがね》?」


「そう! そこそこ!!」


 ん? なんだその反応。中田さんがやけに驚いたように目を見開いている。


「実は俺たち、ついさっきまでそこに行ってたんだよ。お土産でみんなの分の餡蜜も買ってきたから、よかったら後で食べてね」


「ほんと!? やった、餡蜜だってゆーし!」


「お、おぉ。ありがとな寛司」


「どういたしまして。さ、餡蜜も傷んじゃ美味しくなくなっちゃうしね。せっかくだからみんなで先生の所戻ろっか」


「も、もし二人がくろがねに来てたら……あ、あああんなところ、見られ……危な、かったぁ……」


 何かをぶつぶつと呟きながら寛司の手を握っている中田さんの顔には、焦りと安堵のようなものが見てとれた。


 俺たちの目的地と二人の目的地が一緒だったことには驚きだが、まさか……中田さんと寛司もさっきまでの俺たちみたいにくろがねにて″人に見られたらまずい事″をしていたのだろうか。由那と寛司のことだ、一つ一つの座席が区切られている店を選んでいてもおかしくはない。


 つまり、人に見られてはいけないレベルのイチャイチャをそこで繰り広げて……? もし俺たちがここで立ち止まらずにくろがねへと向かっていたらその場面を目撃してしまったかもしれないと考えると、行かなくて良かった。流石に気まず過ぎるからな。そんな状況では俺たちも満足にイチャイチャできたかどうか分からないし。


「よぉし、行こっ。ひなちゃんと薫ちゃんの大会がどうなったかも気になるしね!」


「だな。先生もいつまでも一人ってのは心配だ」


 二人きりで行動を始めてから一、二時間か。色んな意味でめちゃくちゃ濃密な時間を過ごすこととなったが、最終的には由那の笑顔を見て終わることができて本当に良かった。


 終わりよければ、というやつだ。向こうのバカップルも楽しくやれたみたいだし。


「ゆーしっ」


「ん?」


「……また、外でもシようね♡」


「っっう!?」


 だけど……うん。この事に関してだけは、あまり良くなかったかもしれない。




 背徳感の中、人から隠れてキスをする。そんな新しい快楽を、二人で知ってしまったのだから。

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