359話 肉食彼女さん3
359話 肉食彼女さん3
「ん……ちぅ……」
暴走モードに入った由那は、とにかく止まらない。
本人曰くさっきの事もあって好きが増え過ぎたうえに、岩陰といういつ人に見つかってもおかしくない場所でするキスの背徳感。それらが相乗効果を生むと、あっという間に好き好きモンスターへと変貌してしまった。
「好きっ♡ ゆーし、好きぃ♡ かっこぃ……れぅ……らい、しゅきっ……♡」
耳元で何度も何度も囁かれる好きと、それを行動で示すかのような熱々のキス。恋人繋ぎで両手をぎゅっと力強く握りながら注ぎ込まれる大量の愛情に心が満たされていく。
この気持ちよさに溺れていたい。いつまでもこうしていたい。素直な感想だった。
だから、スイッチの入ってしまっていた俺はすぐにされるがままではなくなっていって。自らも激しく舌を絡めた。
官能的な音が止まらない。頭に響いて理性がドロドロに溶けていく。俺のことを強く求めてくれる彼女さんによって、溶かされていく。
体勢は変わらないものの、俺からもキスを求め始めたことに気づいたらしく。由那は頬を紅潮させながらも、更にペースを上げてキスを繰り返した。
「はぁ、はふっ。こんな所で、なんて言ってたのに」
「……彼女さんがその気にしたのが悪いと思います」
「ふふっ。私に襲われて興奮しちゃったのかにゃ〜? それとも、外でキスするのハマっちゃった?」
「こ、興奮してないと言えば嘘になる、けどな。なんか言い方に含みを感じるぞ」
「えっへへ♡ 安心して? 私は興奮しちゃってるよ。多分ゆーしが思ってるより何倍もっ」
じー、と数秒目が合うと、お互いまたすぐにガマンが効かなくなって。俺も自分から頭を少しだけ上げて、由那のくれる好きに応え続ける。
こんな所を人に見られたらどう思われるだろうか。キスをしているだけでもどう見られるか分からないのに、こんな……押し倒されて、身体を密着させながらの大人のキスなんて。少なくとも俺がその現場に目撃したら″そういうこと″をしている最中なのだと誤解してしまうこと間違い無しだ。
この営みは誰にも見られてはいけない。さっき見たパトカーが乗せるのは、下手をすれば次は俺たちになってしまうかもしれない。
分かってる。こんなこと、今すぐにやめるべきなんだってことくらい。
────けど。俺はここで引けるほど、出来た人間ではないのだ。
「むぅ? どうしたの? 手、離したい……?」
「ああ。一回離してくれると助かる」
「えぇ〜。もっと繋いでいたいなぁ。私にぎゅっぎゅされるの、嫌?」
「んなわけないだろ。ただ……な」
俺は悪い彼氏だ。
人の出来たいい彼氏なら、きっと一度はこうなってしまったとしてもなんとかして場所を移すことだろう。二人きりになってしまえば何をしてもいいわけだし。
「手、握られたままだと抱きしめられないから。押し倒されるのは別にいいけど、俺だってもっと由那のこと堪能したいんだよ」
「っっ!? んもぉ……そんなこと言われたら、離さないわけにいかないや……」
そう言って俺の左手を離し、左の耳に髪をかけたその瞬間。俺は空いた右手を由那の背中に回すと、抱擁するようにして更に身体を引き寄せる。
結局のところ、俺も同じだった。この背徳感という感情には抗えない。頭の中が由那とイチャイチャしたいという気持ちで埋め尽くされている。
「お互いが満足するまで、い〜〜〜〜っぱいイチャイチャしようね♡ もし落ち着けたら元々行こうと思ってた和菓子屋さんにも行こ?」
「そう、だな。……行けるといいな」
コイツもきっと、自分で言いながらなんとなくそれが無理だというこは分かっているのだろう。
だって、こんなにも滾ってしまっている。この熱がすぐに冷めることなど────あり得るはずがないのだから。




