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354話 イチャイチャしやがって2

354話 イチャイチャしやがって2



 ひとまず動物ストラップの誘惑には耐えつつ。私はにまにまとうざったい表情を向けてくる寛司の手を引いて即座にその場を離れると、主目的である陶器のコーナーへと足を運ぶ。


 元々、寛司が雑貨屋を調べてくれていたのにはちゃんと目的があるからだ。他の物に目移りするのは一旦後。まずはそっちを見ておかないと。


「えっ……と。ここら辺、かな」


「ねえ、別に無理して一式揃えなくてもいいんだよ? 有美用のはもう別で置くようにしてるし。うちの親も使おうとはしないって」


「そ、そういうわけにはいかないでしょ? 寛司の気持ちはもちろん嬉しいけどね。迷惑だけはかけたくないもん」


 ここに来た一番の目的。それは私が寛司の家で使う食器類を揃えることだった。


 今までは寛司の使っていた物や寛司のお母さんの物を借りたりしていたけれど、いつまでもそういうわけにはいかない。最近はお泊まりする回数も増えてご飯を食べさせてもらうことも増えてきたから、それならいっそのこと、ちゃんと私の食器を一式置いておきたいと思ったのだ。


「誰も迷惑だなんて思ってないけどなぁ。お母さんの喜びようはいつも見てるでしょ? 有美が来てくれるってだけで大喜びなんだからさ」


「思われる前に用意するの! それに……」


「それに?」


「……なんか新しい食器を一緒に選ぶのって、憧れなんだもん」


「へっ!?」


 かあぁ、と顔に熱が篭るのを感じる。


 ああもう、言うつもりなかったのにな。寛司を納得させるためと思って本音を口にしてしまった。


 もちろんお義母さんに迷惑をかけないためにという理由もあるにはある。ただ……それ以上に、心のどこかでこういうのに憧れがあった。


(ま、まるで新婚さん、みたい……)


 同棲をしてるってわけじゃないけど、好きな人の家に一緒に選んだ食器がある。借り物じゃなくて、自分の物を置くスペースがあって、それを使って食事ができる。そんな些細なことに幸せを感じてしまう私は女々しいだろうか。


「ほら、いいから一緒に選ぼ! まずはお椀とお箸から!」


 本当はただのワガママだ。お義母さんとお義父さんが私のことを迷惑だなんて思わないこと、接してる私が一番よく分かってる。


 だから、これは言ってしまえば口実に過ぎない。


「長く使えそうで可愛いやつ、あるかな」


「……ねえ、なんでそんないきなり可愛いことばっかり言うの? 抱きしめるよ?」


「だ、ダメだって! お皿持ってるんだよ!?」


 ぎゅうぅ、と私の手を握ってくる力が強くなる。


 だ、抱きしめるって。嬉しいけど……そういうのは後で、いっぱいして欲しいな。人に見られない所で。


「あ、これなんか可愛い! 先端のところにクマさんが彫ってあるよ! こっちはイルカさん……。むむ、どれも可愛すぎて選べないかも。寛司はどう思う?」


「有美が持ってたら全部可愛いよ。というか本当に抱きしめちゃダメ? なんかこう、有美が可愛すぎて色々と限界来てるんだけど」


「ま、真面目に選んでよ。限界って……それは、うん。ごめんだけどさ」


 いつもは私の方が先に限界が来るのに。私の発言が何か刺さったりしたのだろうか。寛司の左手がわなわなと動き、いつものような余裕が無くなってる。


 変な事、言ったかな。私はただ一緒に食器を選びたくて……長く使えそうで、可愛いやつを……


(長く、使えそうで……? っっ!?)


 あれ? もしかして私、割ととんでとない発言をしたのでは?  


 寛司を限界にさせた発言の一端に気づいたが、どうやらもう遅かったらしい。


 それは私がお皿を一旦元あった場所に戻し、手に何も持たなくなった瞬間のこと。


「ごめん、やっぱりガマン無理。よしよしさせて」


「はぇあっ!?」


 

 隣で限界を超えてしまったらしい彼氏から、たっぷりと抱擁を受けてしまったのだった。

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