352話 私のヒーロー5
352話 私のヒーロー5
「ゆーしっ! ゆーしぃ〜!」
「おわっ。ど、どうしたんだよいきなり」
「ありがとうのぎゅ〜♡ かっこよかったよ、私のヒーローさんっ!」
「ヒーローて……。なんかその響きめっちゃ恥ずかしいな」
しまった。怒りのあまりおじさんのおじさんを思いっきり蹴り上げてしまった。
俺も同じ男だから痛みは分かる。蹴ったこっちの脚にも痛みが走るほどの威力で息子を潰されたらきっとひとたまりもない。人生で一度たりとも経験したくはないな。
だが、コイツは一生のうちで一番と言えるほどの痛みを味わっても償いきれないほどの言葉を俺の彼女さんに浴びせようとした。だから正直全く後悔はしていないんだけども。
「お、おいお前……強烈なの喰らわせたな。玉無くなっちゃいねぇだろうな?」
「知りませんよ。ただ明らかに生々しい感触がまだ残ってるのは確かですけど」
「はは、ガキ怒らせるの怖ぇ……」
もはやさっきのように喚く力も無くなったのか、酔っ払いジジイは股を両手で押さえたままビクンビクンと痙攣して力無く倒れている。俺の力なんて非力ではあるものの、持てる力全てを込めての全力で蹴り上げたのだ。そう簡単に立ち上がられても困る。
と、そんなことを考えていると。俺たちの下に上半身裸でムキムキな水着姿のライフセーバーさん達が二人、駆け寄ってきた。どうやらさっきお兄さんが無線を入れていた相手が到着したようだ。
「おま、なんだこの状況。一発殴っただけって話じゃなかったのか……?」
「お、俺はそうっすよ! ただその、えっと……まあ端的に言うとこのデブがまたそこの子達に襲い掛かろうとしまして。玉蹴り上げて撃墜しちゃいました」
「「わぁお……」」
ふ、二人してそんな目で見なくても。大体場所が違うとはいえお兄さんだって殴ったよな!? ま、まままさかとは思うけど暴行罪的なアレで俺まで連れてかれるんじゃ……
「ま、いいか。野次馬から話も聞いてるし、大方そんな感じなんだろ。なら俺たちは三人でコイツ引きずって連れてくだけだな」
「っすね。じゃあ起きて変に暴れられてもあれですしさっさと行きましょうか。ほら、お前もさっさと手伝え」
「へいへい。ったく、ちょっとくらい褒めてくれてもいいのによ〜。相変わらず後輩の扱いが雑だぜ」
「なんか言ったか?」
「い、いえ! なんでもありませんです!!」
流石は日々鍛えている人達。自分よりも圧倒的に大きなあの酔っ払いをいとも簡単に引きずっていく。
そしてそんな中。さっきのお兄さんだけが一瞬、こちらは戻ってくる。
「お前、名前は?」
「へ? あ、えと……神沢勇士、です」
「そうか。俺は真島。真島穂高ってんだ。いや〜、また会う日があるかどうかも分からんけどよ。一応名前だけ聞いときたくて」
「な、なんでですか?」
まさかブラックリストに!? か、海岸で暴行を加えた少年、みたいな感じで……!?
「かっけえ奴の名前は覚えときてえじゃん。ま、そんだけだ。じゃあな勇士、就職先にでも困ったらウチ来いよ〜」
「あ、ちょっ!?」
自分の言いたかったのであろうことだけを伝え、真島さんは俺を置いて去っていく。
俺たちの地元、ここから相当遠いんだけどな。まあでも……うん。いつかまた、どこかで会えたらいいな。
「……ところで由那さん? どうしてずっとくっついたままなんでしょうか?」
「彼氏さんがかっこよすぎるからなのです。私の中の好き好きホルモンが溢れて止まらないからなのです。早くイチャイチャしたいのですっ!!」
「さ、左様で」
そういえば結局由那が俺を連れて行こうとしてる場所すらまだ聞けてないんだったな。
「んじゃまあ、行きますか」
「行きましょう!!!」
色々あったけれど、真島さんのおかげもあって大事には至らずに済んだ。
俺もさっきまでの緊張が解けたせいか、今は由那と二人きりでイチャイチャして心を癒したい気分だ。彼女さんオススメの場所でたっぷり堪能させてもらうとしよう。




