348話 私のヒーロー1
348話 私のヒーロー1
「一度、髪を黒に染めてみるのはいかがでしょうか」
小学一年生の時。担任の先生に言われたことだった。
それはお母さんと来ていた三者懇談の時の出来事。私がこの白い髪をクラスメイトの子達から揶揄われているのを知った先生からの提案だった。
「一度お話ししたとおり、由那さんはクラスの子達から髪色について揶揄いや弄りを受けています。今はまだ小学一年生。子供のじゃれ合い程度なもので時間が経てば消えていくかもしれませんが、こちらも教師という立場上放っておくわけにはいきません」
先生は先生なりに頑張ってくれていたことは知っている。私によくちょっかいをかけてくるヤンチャな男の子三人組を呼び出して怒っていたり、それでもやめないので親も呼び出してのお説教もしようとしたことがあるそうな。
しかしそれは叶わなかった。いや、正確には親を呼び出すところまではできていたのだが、そこで先生の主張に対して親が反発したのだ。
「どうしてうちの子が怒られるんですか? 日本人のくせにふざけた髪色で登校するその子にこそ問題がありますよね。学校側はどうお考えなんですか?」
結構気の強いお母さんだったようで、私の髪色問題をめぐって一触即発。最終的には校長先生も交えて話をし、私の方にも一度話をするという形で落ち着いたらしい。
「もちろん強要は致しません。由那さんの髪が本当に地毛であることはお母様の髪を見ても明らかですから。なのでこれはあくまで提案です。由那さんがそうするのが嫌な場合は別の手段を考えて再発防止に努めさせていただきます」
先生は温厚な人だった。怒ると少し怖い時もあるけれど、いつも私のことを気にかけてくれて。当然百パーセント毎回男の子たちを注意するのは無理だったけれど、それでも。真摯にこの問題を受け止めて私を助けようとしてくれていた。
でも、だからこそ……私は泣きそうになっていた。
先生の目元にクマができていたのだ。化粧で隠してはいるものの、薄らと紫色の輪郭が残っている。きっとあの男の子の親との件で苦労をかけたのだろう。
子供ながらにしてその時私が感じたのは″申し訳ない″という気持ち。私が今の私でいるせいで色んな人に迷惑をかけている。私がありのままの姿を曝け出すと先生の負担になる。そう考えただけで胸の奥がキュッと締め付けられてたまらなかった。
(私が黒髪になれば、全部解決するのかな。お母さんから貰ったこの髪を隠して、これからも生きていかなきゃいけないのかな……)
他に解決方法が浮かばない。先生とお母さんに迷惑をかけて、クラスの雰囲気を悪くして。クラスの子のお母さんからも変な目で見られて。幼い私の心はもう限界だったんだと思う。
だから、私一人が我慢する道を選ぼうとした。ただ髪の色を変えるだけ。そう自分に言い聞かせて、なんとか納得しようとした。
「っ……」
「由那? 大丈夫……?」
でも、できなかった。気づけば涙腺は崩壊していて、二人に何も言えないままただ涙を拭き続ける時間が続いて。
結局その日の三者懇談は解散となり、私は目を腫らしたまま、お母さんと二人で帰路に着いた。




