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346話 酒は飲んでも飲まれるな4

346話 酒は飲んでも飲まれるな4



「あ〜、はい。そうっす。酔っ払いのおじさんに殴られましてぇ。子供も殴られる寸前までいってたんでとりあえずボコして止めました。重過ぎて運べないんで応援おなしゃ〜す」


「ゆーし! だ、大丈夫? 肩、掴まれて……」


「ん、大丈夫。なんともない」


 少し痛いけれど。跡にもなっていないし大丈夫だろう。


 それにしてもまさか、あそこから助かるとは……。


「あの……ありがとうございます。助けてくれて」


「あ、ありがとうございます!」


「おう。気にすんな気にすんな。これも仕事の一環だからな〜」


 ニカッ、と笑いながら。ライフセーバーのお兄さんは俺の頭にそっと手を乗せる。


「いやぁ〜、にしても彼氏君。中々良いワードセンスしてるねぇ。聞いててスカッとしたぜ」


「い、いえ。俺にはああやって言い返すことしかできなくて……」


「な〜に言ってんだ。普通の奴は立ち向かうことすらできないもんなんだぜ? それをお前は自分に矛先を向けさせて彼女を守ろうと動いた。百パー喧嘩じゃ勝てない相手と対峙した時の行動としては及第点だろうよ。ま、自分の身を軽んじたのは良くなかったけどな」


 そう、なのだろうか。


 あの酔っ払いを倒したのはこの人だ。俺一人じゃ由那は守れなかった。俺に矛先を向けて云々の作戦だって結局最後は周り頼りになる作戦だったし……。


 情けないな。やっぱり俺一人じゃ守りきれなかった。


「そんなこと、ないです。お兄さんがいなかったら今頃どうなってたか。彼氏として、本当に情けなくて……」


「────って、隣の彼女さんはそう思っちゃいないみたいだけど?」


「えっ……?」


「ふっ、ぎゅ……うわぁぁぁぁんっ!!」


「ちょ、由那────うおぁっ」


 ぶわぁっ、と両目から大粒の涙を流しながら。由那は俺のことを思いっきり抱きしめると、胸に顔を押し当てて啜り泣く。


 きっとよっぽど怖かったのだろう。当然だ、俺だって怖かったんだから。直接的に目をつけられた由那の場合、もっと怖かったに決まって────


「ゆ゛ーじ……がっごよ゛がっだよ゛お゛ぉぉ!!」


「えぇ? ちょ、え? 由那さん……?」


 かっこよかった? 今、そう言ったのか? 


 そんなはずない。かっこいいことなんて何一つできなかったはずだ。俺はただ注意を引いて殴られる役に回ろうとしただけ。間接的にすらあの酔っ払いを倒すことには協力できちゃいない。


 それなのに……なんで、かっこいいと。そう言ってくれるのだろう。


「ぐずっ。えっ、ぐ。情けなくなんて、なかったもん。ゆーしは強くなかったかもしれないけど……がっごよがっだもん!」


「よ、よしよし。落ち着けって。結構恥ずかしいから、これ……」


「たははっ! 若いなクソガキぃ。お前がどれだけ自分のことを情けないって思っても、助けてもらった彼女さんがそれを許しちゃくれないってよ?」


 ったく。周りの人から見られまくってるってのに。全然泣き止んじゃくれないな。ライフセーバーのお兄さんも笑ってるし。


 でも……そうか。俺は由那に、情けない彼氏だとは思われずに済んだんだな。なら……うん。良かった。


「……ケぇ……ボケ、がぁ……」 


 抱きつき、頬ずりして。俺の上半身を涙でべちょべちょにしながらも俺のことを何度も「かっこよかった」と言ってくれる彼女さんの温もりを感じながら。ゆっくりとその白い髪を撫でる。


「さて、と。ぼちぼち先輩方が来てくれる頃かな。はぁ〜あ。さっさとこの肉塊運んで休憩行きたいぜ」


 何はともあれ、だな。上手くかっこつけることはできなかったけれど、由那がこう言ってくれてるんだ。これ以上深く考えるのはやめよう。


「俺たちももう行くか。一緒に行きたい場所、あるんだろ?」


「……う゛ん゛ッッ」


 最後にライフセーバーのお兄さんにもう一度だけお礼を言って立ち去ろう。そう思い、まだぐずぐずな由那を宥めながら一度引き剥がす。


「お兄さん。改めて……本当にありがとうございまし────」


「ざける……なッ。ふざけた髪色した、クソブス……ガ。絶対に後悔、させ……」




「……あ゛?」

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