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344話 酒は飲んでも飲まれるな2

344話 酒は飲んでも飲まれるな2



 やけに威圧感のある男だった。


 年齢は多分四、五十代。水着一枚のソイツはかなり太っており、水着の上に乗っている毛の濃い腹部を見ると嫌悪感が湧いてきた。


 そんな男にニヤニヤと下賤な笑みを向けられ、由那は恐怖のあまりフリーズしている。俺もまさかこっちに来るとは思っていなかったからうまく状況を飲み込めない。


 ただそんな中でも、由那の手を離すことだけは絶対にしてはいけないと分かって。繋いでいる手の力を無意識的に強めると、一瞬。男の意識がそちらへ向くのを感じた。


「なんだ? おいヒョロガキぃ。もしかしてお前、その子の彼氏かなんかかよ?」


「っ……だ、だったらなんだよ」


「なんだよぉ!? オイ、オイオイオイ。目上の人に対して使う言葉はそれじゃねぇだろぉ!? なぁ!! だったらなんでございましょうか、だるぉ!?」


「ゆ、ゆーし! 逃げ……逃げないと。は、はやく……」


 逃げる? いや、ダメだ。ここまで近づかれてたらもう遅い。むしろこの状況でコイツに背を向けたらそれこそ何をされるか分からないし。


 俺が何とかしないと。


「ゆ、由那に何か用、ですか? 俺たちこれから用事があるんですけど」


「うるせぇよ。俺はお前ら学生のクソガキと違って普段から仕事仕事で忙しくてなぁ〜。だから隣のその可愛〜い嬢ちゃんに酌でもしてもらおうってことよ。あ、お前はいらねえからな? 男に注いでもらう酒なんて飲みたくもねぇ! ガハハッ!!」


 なんだコイツ。酔っ払ってるからかもしれないがどこまで自分勝手なんだ。


 普段忙しいから? 俺たちが歳下だから? そんなの由那が酌をしてやる理由なんかにはこれっぽっちもなっちゃいない。横暴で理不尽で、自分のことしか考えてないクソみたいな理屈だ。


 ただでさえ、家からあまりにも遠いこんな場所で初めて会う奴になんて由那を連れて行かせるわけがないというのに。更に相手はここまで清々しいほどのクズ。もはや話しているだけでもストレスが溜まって仕方がない。うちの担任も酔っ払うと中々なものだと思っていたが上には上がいたんだな。もはや比べることすら失礼に思えてくる。


「俺たちもう失礼します。行くぞ、由那」


 もうこの場にいることそのものが嫌になった俺は、由那の手を引っ張ってこの酔っ払いから離れることを最優先にした。ここで折れてくれるまで会話を続けるなんてあまりに気が遠くなると思ったからだ。


 しかし────その行為が。クソガキが自分のことをナメ腐っていると感じた酔っ払いの怒りに火をつけた。


「待てよ。まだ話ぃ……終わってねぇだろうが!!」


「いっ……つ!?」


 右手に持っていた酒を投げ捨て、横を通り過ぎようとした俺の肩を掴む。


 体格に見合った大人の力。俺の二倍はあろうかというほどに太い五本の指が俺の肩を締め付け、握り潰さんと力を加え続ける。


「や、やめてください! ゆーしから……手を離してください!!」


「あ゛ぁ? 俺はァ! 大人に対してナメた態度をとったガキに躾を……そうだ! 躾をしてやってるだけだぁ! オラ、ごめんなさいって言えよ。ナメた態度とってすみませんでしたって土下座しろ。んでこの子だけ置いてとっとと消えろやカスが!!」


「っ、ぐ……ぃ……」


 痛い。掴まれた右肩が悲鳴をあげている。ミシミシ、と良くない音が頭に響いている。


(ウザいし……痛えし。最悪だなマジで……)


 なにか悪いことをしただろうか。俺はただ由那と楽しく歩いていただけだ。それをなんで、ここまでされなきゃならないのか。




────段々と、腹が立ってきた。

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