338話 再集合
338話 再集合
「あ、先生やっと帰ってきた~!」
「おう。ただいま……って、なんか後ろの神沢はやけに疲れてないか?」
「き、気のせいです……」
疲れた。マジでどうなることかと思ったぞ。
顔に日焼け止めを塗り終わったはいいものの、問題だったのはその後。
まさか水着の布で隠れている部分以外のほとんどの箇所を俺が塗ることになるなんてな。首元や腕、背中は勿論のこと、わき腹やお腹、太ももまでとは思わなかった。
おかげでまだ手に柔らかな感触が残ってる。デリケートな部分は自分で塗ってくれたものの俺はその様子を後ろから眺めることになったわけで。外だというのに本当に理性の糸がちぎれる寸前まで来ていたぞ。
「にへへ~。私の身体にメロメロにされちゃったんだもんね~?」
「か、身体……まさかお前ら、日焼け止め塗るついでにヤッ────」
「何もしてませんから! 由那お前、紛らわしい言い方するなよ……」
「してないも~ん。事実を言っただけだも~んだ」
何がもん、だ。悪意のある言い方しやがって。いたずら心が思いっきり顔に出てるぞ。
「ま、ここが公衆の面前だということを忘れずにな。嫌だぞー? 教え子がいやらしいことしてましたよって通報されるの。気まずすぎて怒るにも怒れないからな」
せ、先生は先生でなんて生々しいことを言うのか。
そんな寛司と中田さんじゃあるまいし。いくらなんでも人前では我慢するぞ。たとえ由那がどんな誘惑をして来ようとも、だ。俺だってそんな気まずい状況はまっぴらごめんだしな。
と、そんな事を考えていると。そろそろ先生にここを任せて海に戻ろうとする俺たちに向かって、慣れ親しんだ声が届く。
「オ〜イお前ら〜。そろそろご飯食いに行かねえか〜? お腹空いたしよ〜!」
「ご飯!? ゆーしご飯だって! はいっ! はいは〜い!! 食べた〜い!!」
「お、おぉ。よっぽどお腹空いてたのか」
声の主は在原さんだった。どうやら寛司と中田さんにも既に声をかけていたらしく、四人で集まりこちらに向かってきている。
ご飯、か。言われてみればぼちぼち時刻も正午だ。海では結構動いたしきっとみんなお腹がペコペコなのだろう。俺はついさっきまでそんな事はなかったが、いざ意識するとみるまるうちに空腹感が増してきた。これじゃ由那のことを食いしん坊だとか言えないかもな。
「よぉ〜し。奈美ねえも行こうぜ。全員貴重品は持ってくから荷物番は少しくらいいなくても何とかなるしよ」
「あ゛〜? 私はいらないぞ。さっき吸ってきたからあんまり腹も減ってないし」
「煙草は食べ物じゃないんだが? というかくっさ! めちゃくちゃ匂い染み付いてんじゃねぇか!! そんな状態で私の荷物枕にして寝転ぼうとしてんじゃねえよ!!」
「えぇ。私は別に気にしな────」
「私が!! 気にすんだよ!!!」
そう叫ぶと、ガシッと首根っこを掴んで。半分引きずるようにして先生をシートの上から追っ払う。
やり方は乱暴だが先生一人を置いていきたくないという気持ちから来た優しさなのだろうか。それとも本当に煙草の匂いが荷物についてしまうのが嫌でそうしたのか。在原さんの心中は読み取れないが、まあどうせなら全員で食べたいしな。助けてくれと言わんばかりの目で先生から強い視線が送られてきてるが無視しておこう。




