337話 後輩との再会4
337話 後輩との再会4
「ふぅ。さて……と。そろそろ戻るかな」
そろそろ神沢と江口のイチャイチャも終わった頃だろうか。
一応あいつらの邪魔をしないために出てきた訳だが、逆にもうイチャイチャタイムが終了しているのだとしたら私が戻らないのはアイツらにとって迷惑になる。流石に荷物番を誰も置かずに全員で遊び呆けるってのは無理な話だしな。
「え、もうすか? 三本目、いっちゃってもいいんすよ?」
「私もそうしたいのは山々なんだがなぁ。生憎と私はアイツらの先生なもんで。いつまでもほったらかしにはしてらんねぇよ」
「……そっすか」
「なーにちょっと寂しそうな顔してんだよ。またいつだって会えるだろ?」
「さ、寂しそうになんて!」
「してるって。こちとら毎日何人の教え子の表情を見てると思ってんだか」
職業柄、すっかり他人の考えていることが分かってくるようになってしまった。喜んでいる時、怒っている時、我慢している時……そして、寂しそうにしている時。それぞれ、特に子供は分かりやすいくらいそれらを表情として表に出してくる。
荒野も結構分かりやすいな。まだ行ってほしくないって顔に書いてあるぞ。ったく……私なんかと話すのの何がそんなにいいんだか。
「ありがとな、荒野。久しぶりに話せて楽しかったよ。たしか連絡先……はもう持ってるか。まあなんかあったらLIMEでも飛ばしてくれよ」
「それは……はい。もちろん。というか今度呑みにでも行きましょうよ。私も先輩とこうやってのんびり話してるの、めちゃくちゃ楽しかったんですから」
良い後輩を持ったなぁ、と。素直にそう思った。
高校時代の先輩後輩なんてのは仲の良いのは現役時代だけ。先輩の方が先に学校を去る時「たまには部活に顔を出してくださいね」だの「今度ご飯連れてってください」だの後輩は言ってくれるものだが、そのほとんどは社交辞令のようなものだと思っている。
実際にその言葉を鵜呑みにして部活に顔を出せば気まずい雰囲気になり、ご飯を誘っても奢り目当てで仕方なく来てくれるかやんわりと断られる。その程度の関係性が先輩後輩なのだと私は考えている。
悪く言っているように聞こえるかもしれないが、むしろそれが普通だ。先輩後輩という関係性は言わば″時間制限付きの友達″みたいなもの。一度部活などを引退して関係性が途切れてからもう一度繋ぎ直すケースの方がよっぽど稀だ。
それだというのに────
「ヤニ、吸える店にしてくれよ。喫煙所でしか吸えない所じゃなくてちゃんと座席で吸えるとこな」
「っ……! はい、探しときますね!!」
社交辞令も利益目的も何もない。そんな、純粋に私との関係性を繋ぎ続けることだけを目的とした誘い。三つも歳が離れている間柄でそんなことをしてくれる後輩というのはこの世に何人いるのだろうか。その数少ない人種のうちの一人が私の後輩にいたとは。
(何嬉しくなってんだか……私は)
灰皿で煙草の火を消し、重い腰を上げて。後ろから手を振ってくれる後輩に対して一度だけ半分振り返り、そっと手を振り返す。
「またな」




