334話 後輩との再会1
334話 後輩との再会1
「はぁ〜ぁ〜。クッソ、嫌んなるな。どこもかしこも同じことばっかり書きやがってよ……」
さながらレジャーしに来るはずの海でしていいとは思えないほどに大きなため息を吐いて。私は憎たらしい陽の光に当てられながら砂浜を歩く。
あの二人のイチャイチャの場に私がいたら邪魔だろうと飛び出して来たはいいものの、ここにはとにかく私の安息の地がない。
右を見ても左を見ても「喫煙禁止」の立て看板が視界に入り込んでくる。年々喫煙者の立場は弱くなっていくな、ほんと。
とりあえず一旦ヤニは諦めてキンキンに冷えたビールでも買いに行こうかとも思ったが、ここまで喫煙所を探しておいて挫折というのはなんか負けた気になる。無理矢理にでもここで吸ってしまいたいが周りの視線が痛すぎるしなぁ。どうしたもんか……。
「あの、すみません。もしかして喫煙所をお探しですか?」
「え?」
その瞬間。背後から肩をつつかれ、突然誰かに声をかけられる。
声の主は女だ。まずい、とうとう喫煙者はタバコを吸っていなくとも迫害される時代が来てしまったのか? コイツ煙草吸いそうだなって判断された時点で追放されるのか!?
「吸える所、向こうにありますよ。よければ案内しましょうか?」
「違う! 私は喫煙所なんてぜんっぜん探してないしヤニはこれっぽっちも! ああ、これっぽっちも吸ったこと無……え? マジ?」
「マジです」
「お、お願いします! 連れてってください!!」
どうやら被害妄想だったらしい。なんだ、ただのいい人か。
麦わら帽子を深く被っていて顔がよく見えないが、声を聞いている限り美少女の雰囲気がある。もしかしてこんな人でもヤニを? いや、流石にか。
これは私の持論だが、面の良い女は基本的にヤニを吸わない。たまに美人女優なんかが喫煙者だという話を聞くけれどそれアイツらだって結局近くで見たら肌荒れしていたり歯が黄色かったりするのだ。仮に素材が良くても煙草はそれらを簡単に破壊していく。だから喫煙者で完璧に面が良い、なんて女はそうそういない。
だからきっとこの人もここらへんに住んでる人か海の家の従業員といったところだろう。私が喫煙所を探していることを察し、こんな所で吸い出さないように連れて行こうとしているのだ。
考え方によっては追放されているようにも感じるが何でもいい。ヤニが吸えるなら細かいことは気にしないのが私の流儀だ。
「ふふっ、もちろんいいですとも。というか敬語はやめていいですよ? 違和感凄いですし」
「へっ? い、いやぁ……初対面の人相手にいきなりタメ語の方が違和感ありません? まあ私の職業柄ずっと敬語なのが染み付いてるってのもあるかもしんないですけど……」
「ふふ、ふふふっ。初対面なら、ね。全く、案外気づかないものなんですね」
「? 一体なんのこと言って────」
「わ・た・し、ですよ。先輩っ」
「!? お、お前……荒野か!?」
「もぉ、やっと気づきましたか」
荒野照。なんでこんな所で高校時代の後輩と再会するんだ……?




