333話 ぬりぬりイベント3
333話 ぬりぬりイベント3
「んもぉ。彼氏さんは手つきがエッチなんだもん。変な声出させないでよぉ」
「か、勝手にお前が出したんだろ!?」
ったく。ま、まあ何はともあれ一旦顔は乗り切った。
セーフティーポイントと見せかけたとんだトラップだったが、俺の理性はまだギリギリ機能している。このままいけば────
「じゃあ次は上半身、シて? 首元と肩、あとは腕も……全部、彼氏さんに塗ってもらいたいなぁ」
「全……っ」
「うん。全部。前が終わったら後ろもお願いしちゃうからね。ふふっ、あの漫画みたいにしてもらおっかな」
あの漫画みたいに。
それはつまりあれか。寝っ転がって水着の紐を外し、背中をぬりぬりする例のあれのことだな? まさか恋愛ものでアプローチのためにヒロインがやっていたことを由那からされることになろうとは。
────うん、我慢できる気がしない。
(じゃないだろぉ!? こんな屋外でイチャつくわけにもいかないし……もういっそのこと場所を移すか? 何してもいい隠れられる所とか……)
理性崩壊の危機を感じ、頭が逃げの思考に走る。
どうせ暴走してしまうなら誰にも見られない場所で。そう思い、割と真剣に移動することを考え始めていたのだが。
「ごろ〜ん♡ はい、彼氏さんっ。早くぬりぬりして?」
俺の彼女さんはそれを許さない。
何かを察したのか、膝立ちしていた俺の足元に転がって。にゃ〜ん、とお腹をなでなでされる時の無防備な猫のポーズをとりながら俺を誘う。
諦めて早く塗れ、とでも言わんばかりだった。
「ゆ、ゆーしが塗りたいところ全部……塗っていいんだよ? 昨日みたいに狼さんになっちゃっても、私は……」
「スゥー……」
ぽっ、と頬を赤くしながらそう呟く彼女さんが可愛すぎて。思わず変な息の飲み方をした。
狼さん。由那がそう呼称する俺の状態はいわば、彼女さんに魅了されて理性の糸が千切れた状態のことだ。それこそ昨日の夜のような大人のキスを簡単に求めてしまうような────男の部分を曝け出した暴走状態。なんて場所でなんてものを呼び起こそうとしてるんだコイツは。
理性と欲望が交錯する。
由那の身体には触れたい。日焼け止めを塗るという体裁を保ちつつこのもちやわ肌に触れていられるのなら最高だ。もはや断る理由はない。
唯一の懸念点として挙がるのはここが外であること。仮に俺の中の狼さんが暴走した場合、手がつけられない。そして二人で交わっているところを確実に誰かに目撃される。それだけは絶対に避けたい。
つまり……ここで日焼け止めを塗るという行為そのものが確定な以上、もう腹を括るしかないのだ。
欲望に飲まれずに日焼け止めを塗り終える。その後どうしても我慢出来なくなったらその時はその時で考えよう。最悪人のいないところに移動して発散する。
「由那、絶対変な声出すなよ? ここが外だってことは忘れずにな」
「は〜い。彼氏さんがエッチな触り方してこない限りはガマンしま〜す」
「……よし」
塗らなければいけない範囲は膨大。俺がサボればその部位は日光という毒に侵食されてしまう。
大切な彼女さんのためだ。気合を込めてぬりぬりさせてもらうとしよう。




