330話 日焼け止め
330話 日焼け止め
ガコンッ。重い音と共に自販機の取り出し口へ落ちたペットボトルを拾い上げると、隣の由那へと渡す。
中身は麦茶だ。手でペットボトルの表面を触っただけでよく分かるほどに冷えていた。
「ぷはぁっ! 暑い夏にはやっぱり麦茶だよね〜。はい、ゆーしもどうぞ!」
「ん。じゃあ遠慮なく」
それにしても今日は天気が良いな。おかげで太陽にギラギラと照らされて暑いったらない。
たらりと垂れてくる汗を拭きながら麦茶を一口。
うん、美味い。やっぱりキンキンに冷えてる麦茶は最高だな。暑くなった身体によく染みる。
「あっ、見て見て! 海の家でいっぱいごはん売ってるみたいだよ? 焼きそばにかき氷……カレーにソフトクリームもあるって! あんなの見てたらお腹減ってきちゃうよぉ!」
「まだ十時過ぎだぞ。この食いしん坊さんめ」
「むっ……。食いしん坊じゃないもん! あんなに美味しそうなものが売ってるのを見たら誰だってお腹が空いて当然だもん!!」
「はいはい。ごめんって。まあ後で昼になったら色々食べに行こうな」
「ほんと? えっへへ、じゃあ今から何食べるか考えとかないとね」
それだけ食い意地を張っておいてなぜ食いしん坊じゃないと言い切れるのか。まあもうこれ以上はツッコまないけど。
「ね、次は何しよっか。ボールぽんぽんする? それとも薫ちゃん達みたいに浮き輪でぷかぷかイチャイチャしちゃう?」
「う〜ん、どっちも魅力的だな。こんな日差しの中海に入らずにいても仕方ないし、やっぱり海に戻るのは確定として。どっちも由那とするなら楽しそうだし」
「じゃあどっちもしちゃお! 悔いは残したくないもんね!!」
「ま、それが一番だな」
にしても本当、海に入ってないと死ぬほど暑いな。もうすっかり夏だ。
この調子だと日焼けも間違いないだろう。俺はそういうのを特に気にしないから日焼け止めも何も塗っていないし特にだ。下手すると明日は全身ヒリヒリ地獄に遭ったりするのかもな。
「そういえば由那って全然日焼けしないよな。他の女子もそうだけど、日焼け止めってそんなに効果あるもんなのか?」
「ん〜? そりゃもちろん、日焼けを止めるクリームだもん。肌の弱い子ならそれでも日差しでちょっと赤くなっちゃったりしちゃうんだけどね。私は基本塗ってたら日焼けは……」
「? どうしたんだよ。急に立ち止まって」
なんだ? 腕を組み少し早い歩調で歩いていた由那が突然立ち止まった。そして止まったかと思えばわなわなと不安そうな表情で一度俯くと、ゆっくりと顔を上げて。俺の目を見て言う。
「……日焼け止め、塗るの忘れてた」
「っ!? ま、マジか?」
「まずい! これは本当にまずいよ!! このままじゃ私こんがり焼けちゃう! 小麦色になっちゃうぅ!!」
「お、おお落ち着け! きっとまだ大丈夫だって! ほら、早く取りに戻るぞ!」
本気で慌てた様子の由那を宥め、すぐに荷物を置いている場所へと向かう。
もうそれなりに日差しを浴びてしまったがまだ間に合うはずだ。少なくともこんがりと焼けた肌になってしまうことは避けられる……はず。多分。分からんけど。
(そんな由那もちょっと見てみたい気もするけど……って、流石に言ってる場合じゃないか)




