327話 水鉄砲合戦3
327話 水鉄砲合戦3
それは、あまりに一瞬の出来事だった。
俺の隣で由那が蘭原さんに向けて乱射。間接視野でしか見る余裕はなかったが結構な数を撃っていたはず。
しかしその後返ってきたのはたった一発。わずかな量の海水の一閃。それは由那の左胸を直撃すると、水着を濡らしてポタポタと雫を垂らす。
「ひ、ひなちゃん? 左胸って……え? い、一発で心臓の上を?」
「ダメです。ダメですよ由那さん。そんなに隙だと簡単に撃ち抜けてしまいます。やり甲斐がないじゃあありませんか」
なんだろう。心なしか蘭原さんの口調がいつもと違う気がする。
なんというかこう……歴戦のプロを思わせるオーラを纏っている気がしてならない。
とりあえずヤバい。″あれ″はもう、由那の手に負える敵じゃない。
「ひえぇ。ひ、ひひひなちゃんが怖いよぉ。た、助けてゆーし! 私を守護ってぇ!!」
「のわっ!? ちょ、後ろ隠れんなよ! こっちは在原さんの相手もしてんだぞ!?」
「うぅ……だって! だってぇ!」
ダメだ。完全に戦意喪失してしまっている。
たった一発。あの冷ややかな弾丸に撃ち抜かれ、由那はもう牙を抜かれてしまった。これじゃあもう戦力にはならない。
まずいな。在原さんとのタイマンですら中々にキツい状況だというのに。そんな状態でもっとヤバい蘭原さんまで相手をしなきゃいけないのか? こんなのあっという間に蜂の巣にされるぞ……。
「ほほう、流石は私のひなちゃんだ。心臓を一撃とはなぁ」
「ふふふっ。これも薫さんとの日々の努力の賜物ですね。さて、次は」
「ひっ!?」
ジャコンッ。そんな金属特有の重い音が想像できてしまうほどに鋭い銃口。それを向けられ身体が固まってしまう。
しまった。まさかこんな展開になるなんて思ってもみなかった。銃を持たせることであんなモンスターが生まれてしまうなんて。
「やれ、ひなちゃん! リア充に鉄槌を下すのだ!!」
「っ────!!」
避けられない。そう思い反射的に目を閉じてしまった、その時。
「そろそろ俺たちの出番かな」
「隙アリッ!」
「なぁっ!?」
「か、薫さん!!」
俺の背後────いや、その後ろにいた由那の更にまた後ろから。スッと耳元に伸びてきた水鉄砲の引き金が即座に引かれ発砲。蘭原さんは咄嗟に距離を取りそれを避けたが、その横で余裕綽々な表情をしていた在原さんは見事に顔面へと被弾した。
「ふふんっ。私たちのこと、忘れてもらっちゃ困るわよ。日頃の恨みは今ここで晴らすんだから!!」
「ぐぬぉ……め、目に海水がァァ……」
どうやら機を伺っていたらしい。在原さんに着弾させたのは中田さんのようで、してやったり顔をしながら彼女が悶える様を堪能している。
助かるならもっと早くしてくれよな、なんて思いつつも。心強い加勢に内心ホッとした。なにせこれで四対四。その上こっちには────
「凄いね、蘭原さん。普段とは別人みたいな動きだ」
「わ、渡辺さん。邪魔しないでくれますか? 薫さんは私が守るんです。薫さんが勝利を望むなら、私はそれに従うまで。たとえ相手があなたでも倒してみせます!!」
「ふふっ、奇遇だね。俺もちょうど君を倒そうと思ってたところだよ。こんな特技があったなんて驚いたけど……中々、楽しめそう」
なんだこれ。マジでなんなんだこれ。
段々、バトル漫画みたいな流れになってきてないか……?




