326話 水鉄砲合戦2
326話 水鉄砲合戦2
「反撃してやる、だぁ? 甘ちゃんカップルごときに私たちの動きは捉えられんぜよ!」
「あ、あわわ……なんか変なことになっちゃった……」
すかさず水辺へと移動しちょいちょいっ、と左手で挑発をしてくる在原さん。おそらく俺たちにもこちらへ来いと言っているのだろう。
確かに水鉄砲で陸戦をするわけにはいかない。あそこならタンクの中の水が無くなってもすぐに海水で補充できるしな。
「おや、二人しか来ねえのか? こちとら四対二でも勝てるんだけどなぁ?」
「ふんっ! 有美ちゃんたちに助けてもらわなくても私たちだけで充分だよ! ゲームの中と現実じゃぜんっぜん違うもんね!!」
「その通りだ。悪いけどこっちは彼女さんを撃たれてるからな。しっかりやり返しさせてもらうぞ」
蘭原さんには恨みは無いが、在原さんの側につくと言うならば仕方ない。一応今この戦いから離脱すると宣言してくれれば話は別だが。
「ひなちゃん、普段からイチャコラちゅっちゅしてるコイツらに報復するチャンスだ。それによ……試してみたくないか? 私たちがゲームで磨いたこのスキルがどこまで現実で通用するのか、よ」
「う゛っ。そ、それは……」
ゲーマーの本質というやつを見抜かれているのだろう。在原さんの言葉を受け、蘭原さんの瞳が少し輝いた。
誰だって一度は思ったことがある。シューティングゲームをした後には本物の銃を使ってみたい。某狩猟ゲームをした後には太刀やハンマーを振り回してみたい、と。そんな心理につけ込まれたうえ、仲間として協力関係を結べるのは彼女にとって最愛の人。もはやもう断ることなどできないようだ。
「ごめんなさい、由那さん。神沢さん。わ、私はこっちにつかせてもらいます」
「まあそうだろうな、蘭原さんは。じゃあ悪いけどもう恨みっこなしだぞ」
「ふっふっふ〜。ひなちゃんにもい〜っぱい撃っちゃうからね!」
四人全員がタンクに海水を補充し、本体へとセット。合戦の準備が整うと、それぞれの銃口が狙うべき相手へと向けられる。
「開戦だァァ!!」
カシュッ。カシュカシュカシュッ。
開口一番、最も速く引き金を引いたのは在原さん。銃口の先端から発射された海水は一直線に顔面目掛けて飛んでくるが、反応できず動けなかった俺の耳を掠めて後方へと突き抜ける。
「っ!! こんの!!」
「ハッハァ! オラ! オラオラオラオラァァ!!」
思っていた以上に速度と威力のある銃だ。おかげで素人の俺でも在原さんの身体を掠めることができるが、同時に俺も何発か被弾してしまう。
右肩に。左脇腹に。確かに当たったと認識できるほどの水を喰らいながらも、俺は仕返しで引き金を引き続ける。
ここはゲームの世界じゃない。身体に被弾したところで基本的にダメージが入ることはないのだ。
狙うのは一点のみ。女子相手に悪いが、怯ませるには顔に着弾させるしかない。
「どうやら考えてることは同じみたいだなぁ。リア充フェイスにヘッドショット刻んでやるよォ!!」
「刻まれるのはそっちの方だ! 由那の恨みは俺が晴らす!!」
一進一退の攻防。ものの数十秒でデッドハートへと発展した合戦はノーガードでの撃ち合いへと戦況を変化させていく。
戦況は五分五分といったところか。流石ゲームで鍛えているだけあって狙う力────すなわちエイム力は在原さんの方が上。しかしここは現実。男子の中では秀でた力を持っていない俺だが、身体能力ではこちらに分がある。顔面付近に来る海水のみを避けるという風に意識を研ぎ澄ませばしばらくは持ち堪えられるはずだ。
「絶対勝────」
「ふふっ」
「え……?」
持ち堪え続ければいつか勝機はやって来る。そう己を鼓舞し、一歩身体を前に前進させようとしたその瞬間。
「あ、あれ? 撃たれ……?」
「ふふ、ふふふっ。ダメですよ由那さん。隙だらけですっ」
俺はすぐに理解させられた。戦況は五分五分などではない。本当にヤバい敵は在原さんではなく────
「キル……取っちゃいました♡」
その隣で不敵な笑みを浮かべる、この眠れる獅子だということに。




