325話 水鉄砲合戦1
325話 水鉄砲合戦1
「「ふぅ……」」
そしてそれから程なくして。俺と寛司は腕を軽く痙攣させながらも無事、全ての浮き輪とビーチボールを膨らませ終えたのだった。
死ぬほどキツかったせいかようやく終わり気が抜けた。ぺたんっ、とお尻をシートの上に付けるとそのまま寝っ転がってしまいそうにもなったが、なんとか踏みとどまる。
「お疲れ様、ゆーし! 頑張った彼氏さんにはご褒美を贈呈しましょ〜! 何が欲しいのか言ってみて!」
「何あげてるのか決めてなかったのかよ」
「ふっふっふ。確かに何も用意してないけどぉ……私の身体なら、好きにしちゃっていいんだよ? だってこれはご褒美だもん♡」
「っ……」
好きに、だと? なんて場所でなんて格好しながらなんて台詞を囁きやがるんだこの彼女さんは。
つまりそれはあれか? 「ご褒美に私の身体を好きにしていいよ」ってことか? よくもまあ水着なんて男を欲情させるものを着ておきながらそんなことを言ってくれたものだ。こちとら人の目があるからとイチャイチャをかなり我慢しているというのに。
「ぎゅっ、する? それともなでなで? ちょっと恥ずかしいけど、キスでもいいよ? 大人のは……ううん、ゆーしがシたいって言うなら、私は逆らわないもん。昨日みたいに強引に肩を掴んで────」
「よぉしじゃあなでなでしてもらおっかなぁ! 彼女さんからいっぱい頭なでなでされたいなァ!!」
「……もぉ」
なんだその不満そうな顔は。ぷくりと頬を膨らませるんじゃない。これは俺へのご褒美なんだから選択権は俺にあるはずだろう。
そりゃあハグもキスもシたいに決まってるだろう。今が二人きりなら迷わずにそっちを選択して甘々漬けにしてもらってるところだ。
が、ここは今野外であるということを忘れてはいけない。こんなところでみんなに見られながらなんてどんな羞恥プレイだよ。
「わ、私も。寛司? えっと、ね? ご褒美のことなんだけど……」
「お前らいい加減にしろ」
「────ひゃっ!?」
中田さんの甲高い悲鳴が響く。
なんだと思い振り向くと、どこから取り出したのか、中々に大きなサイズの水鉄砲を構えた在原さんがスナイパーの顔をしていた。どうやらあれで中田さんの背中を撃ち抜いたようだ。
「薫……アンタねぇ!」
「はっ! メス顔して無防備な背中晒してるからだ! うらぁ! そっちもぉ!!」
「わわぷっ!?」
中田さんに檄を飛ばすとすかさず由那の顔にも発砲。こっちは情けない声をあげながらそれを喰らうとゴシゴシと顔を拭いてから応戦の構えをとった。
「むむぅ……やったね薫ちゃん。そっちがその気なら全面戦争だよ!!」
「はっはぁ! かかってこいや甘ちゃんどもが! 私とひなちゃんのエイム力見せたらぁ!!」
どうやら在原さんは鼻からその気だったらしい。唸りながら寝転がっている先生の横に置いてあった荷物からは人数分の水鉄砲が姿を覗かせていた。
向こうがやる気なら俺たちも戦わないわけにはいかないだろう。それに俺だって男だ。水鉄砲なんて見せられたら使わないなんて選択肢はとれない。
「やろう、ゆーし! いつもいつも薫ちゃんにはしてやられてばかりだからね……。ぎゃふんと言わせるよ!」
「おう。たまには反撃してやらんとな」
今ここに水鉄砲合戦のゴングが鳴った。




