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321話 絆創膏

321話 絆創膏



「で〜〜? その絆創膏は何なんだよぅ。うりうり、由那ちゃんと神沢君が同じ位置を蚊に刺されるなんて偶然、怒るわけないだるぉ〜?」


「……きゃっ♡」


「Fuuuuuuu!!」


 言わんこっちゃない。


 案の定、集合時間に廊下へ出ると在原さんに即座に気づかれて思いっきり揶揄われた。しかも由那は意味深な返事でぽっ、と頬を赤く染める始末。これ、俺が誤解解かなきゃいけないのか……?


「ん〜で、有美と渡辺君はまだかよ。奈美ねえが後から遅れてくるってのは分かるけど。あの二人は寝坊しそうなタイプには見えねえぞ?」


「た、確かにそう……ですね。なにかあったんでしょうか」


「なにか……か。そうだな。ナニかはあっただろうな」


 こ、高度な下ネタを。蘭原さんも由那も高度すぎて全く気づいてないぞ。


 というか、確かにあの二人が遅刻なんて珍しいな。別にまだ集合時間は五分しか過ぎてないし、大して焦ったり怒ったりもないんだけども。ただシンプルにいつも時間は守っているイメージのあるあの二人だからこそ引っかかる。


「ワンチャン寝てるかもしんねえし、一応入ってみて────」


「ご、ごめんっ! 遅……れたっ!」


「うおっ!?」


 そうして在原さんが襖に手を触れようとした瞬間。中から中田さんが飛び出てくる。


 えらく大慌てだ。もしかして本当に寝坊なのだろうか。


 はぁ、はぁ、と息を切らしている中田さんの横髪は寝癖で少し跳ねていて、いつもは綺麗で直毛な黒髪も全体的に少し乱れている。


 ま、まさか寛司も? あのスカしたイケメン野郎のだらしない姿が見れるんじゃ……


「いやぁ、ごめんね。二人して寝ちゃってて起きたのついさっきなんだ。急いで準備したんだけどやっぱりちょっと遅れちゃったか」


「……オイ。中田さんはともかくお前は急いで準備した感微塵もないんだが?」


「ははは、まさか。ほんと、起きたの5分前とかなんだよ? とりあえず顔洗って歯だけ磨いて出てきたんだから」


「……」


 コイツ、寝起きでもイケメンかよ!


 えぇ? びっくりするくらいいつも通りなんだが。髪は綺麗だし息も切れてない。顔だってこう、多少目やにが付いていたりしてもいいものなのに。イケメンはいつでもイケメンってか? やかましいわ。


「んあれぇ? 有美には絆創膏無いな……。コイツのことだから絆創膏まみれで出てきてもおかしくないと思ったんだが」


「ば、絆創膏!? な、なななんのこと……?」


「ん? ん〜? ああ、そういうことか。付けられたのは有美じゃなくて────」


 じぃ。全員の視線が寛司に向く。


 頭の回転が速いコイツのことだ。それが隠せる位置にあったなら、気づかれないよう簡単に隠してしまうだろう。


 が。俺と同じような位置に付いていたなら。そうはいかない。


「む、虫に刺されて……」


「さっきやったんだよ。そのくだりは」


 まさか先生含め七人いるうちの三人が同じ場所に絆創膏を付けていようとは。二人ってだけでも虫刺されで言い訳できないのに。


「……お互い、独占欲が強くて甘えんぼな彼女さんで困っちゃうね。勇士」


「ああ、全くだな」




 まあ俺も由那に付けてるから。あまり人のことをどうこう言える立場ではないんだけども。

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