319話 寝落ちするまで
319話 寝落ちするまで
「えっへへ〜。ごろ〜んっ」
「ごろ〜んじゃねえよ。ったく……」
俺が苦労して敷いた布団に転がりながら気持ちよさそうな声をあげる由那を見て、思わず眉間の皺を寄せる。
結局気持ち良すぎて立てなくなってしまったらしいコイツを背負って脱衣所まで運ぶ羽目になるわ、自分で身体を拭けないと喚き出して全身見えなくなるレベルにデカいバスタオルを使い俺が身体を拭いてあげることになるわで大変だった。流石に服は自分で着てくれたものの。神経を使いすぎてめちゃくちゃしんどかったぞ全く。
「結局布団敷くのも手伝わなかったしな。彼氏使いの荒い彼女さんだよ」
「ゆーしが私を気持ちよくしすぎるからいけないんですぅ。足腰立たなくなるまでシた彼氏さんが責任を取って寝床を準備するのは当然なんですぅ〜」
「オイなんだそのめちゃくちゃ語弊生みそうな台詞。おま、絶対それ他の奴の前で言うなよ?」
ぷいっ、とそっぽを向きながらまともな返事は返さずはぐらかしてくるので思わず頭グリグリでもしてやろうかと思ったが。疲れてそれどころではなかったので俺も隣へ腰を下ろす。
「なぁに? もしかしてもう私とイチャイチャ再戦したくなったゃったのかにゃ〜? もぉ、元気過ぎて困っちゃうにゃあ♡」
「はいはい。もうどうとでも言ってくれぇ」
「むぅ。適当にあしらわれたらそれはそれでヤダ! うにゃにゃにゃ!」
「いでででっ。やめろ、脇腹グリグリすんな……」
正直俺ももうフラフラだ。由那の身体を拭いて布団を敷いて、っていう重労働を強いられてる時も腰ギリギリだったし。
ああ、でも布団は頑張って敷いてよかったな。多分これいい布団だろ。もっふもふで気持ちいい。
「今頃他の部屋でもイチャイチャが繰り広げられてるのかなぁ? ま、私たちが一番だけどね!」
「う〜ん、どうなんだろうな。寛司と中田さんは間違いないとして。在原さんの部屋は予想つかないな」
何せ先生という危険分子もいる。いやまあ蘭原さんも俺たち目線からすれば充分危険ではあるけども。
寛司は今頃どうしているのだろうか。あの様子だとやることはやっていそうな気がする。
「こっそり聞き耳立てちゃう? 有美ちゃんの可愛い声、聞けるかも……」
「やめとけやめとけ。流石に可哀想だろ」
本当にそんな感じの声が聞こえてきてもちょっと気まずいしな。女子同士な由那ならいいかもしれないけれどそれが俺となると更にややこしくなる。ここにいるだけで声が聞こえてくるほどヒートアップしないことを願っておこう。
「俺たちはそろそろ寝る準備しないとな。明日も早いんだし」
「え〜っ!? せっかくの旅館だよ!? 夜更かししようよぉ! 今日は一晩中イチャイチャするって決めてたんだよ!?」
「そんなこと言って……なんか疲れ果てて俺より先に由那の方が力尽きる気がするけどな」
「なにをっ!? 私そんなによわよわじゃないもん!」
「いやでも、さっきだって……」
「さっき? あっ……」
「……」
かあぁっ、とみるみるうちに由那の顔が真っ赤っかに染まっていく。
「あ、あれは違う、もん。あれは、狼さんなゆーしがかっこよすぎて……うぅ」
両手で顔を隠しごろごろと身悶えしてから。ぴとっ、と。俺の太ももに顔を当て、チラリとこちらを覗いてくる。
そんな顔されても、な。俺だって思い出すと恥ずかしいんだぞ。後悔はしていないが、我ながら暴走しすぎたと反省はしている。まさか由那の腰を抜かすまで止まらないとは思わなかったから。
「と、とりあえず歯は磨いておくか。そこから布団で寝落ちするまでごろごろイチャイチャをする……ということで」
「……ん」
コクリと頷いた由那に手を貸して二人で立ち上がり、洗面所へ。
歯ブラシで歯を磨いている間、鏡に映っていた俺たちの顔はあまりに赤くて。お互い、恥ずかしすぎて直視することはできなかった。




