315話 本能と理性2
315話 本能と理性2
「じゃ、とりあえずお風呂行こ? 露天風呂、大きいといいなぁ……」
「そう、だな。湯船は大きければ大きいほどいい」
大きくあってくれ、頼む。今のコイツと家の風呂のような小さな湯船に放り込まれたら本当にまずいから。
心の中で密かにそんなことを考えながら。脱衣所から露天風呂へと続く扉を開く。
「おぉ……!」
「わぁ、すごっ! 広ぉい!!」
この旅館を外から見た時といざ部屋に入ってみた時、とても綺麗で良い部屋だと思った反面、少し違和感はあった。
外からのサイズ感といざ中に入ってみてのサイズ感に、妙に差を感じたのだ。こんなことを言うのは失礼かもしれないが、意外に小さいな、と。
その原因はどうやらこれだったらしい。
シャワーが二つに、うちの家の五、六倍はあろうかという木造の浴槽。こんなに広いスペースを全部屋備えていれば部屋の面積が小さくなってしまうのは必然だ。
「えへへ、こんなに広いお風呂でゆーしと二人きりなんて。これはもういっぱいイチャイチャしろって神様が言ってくれてるんだよね!」
「神様がイチャイチャしろなんて言うかぁ?」
「言うのっ! ふふふ、私には天の声が聞こえるのです。汝、隣であなたを愛している可愛い可愛い彼女さんとイチャイチャしなさい。そしてあわよくば身に纏っている邪魔なものを取っ払いその魅惑的な体を好きなように────」
「待て。その神様品が無さ過ぎるだろ」
「え〜。ゆーしは神様の声に逆らっちゃうの? いけない子なんだぁ」
「たとえ本当に神様がそう言ってたとしても従わないっつの。なんで他人に俺と由那のことを決められなきゃいけないんだ」
「……なに、今の。なんか映画の主人公みたいでめちゃくちゃかっこよかった。え、しゅき……」
はい、変なトキメキ方しないでくださいね。
ったく。今日の由那は本当に折れないな。ぎゅうぅ、とまた双丘を押し付けて恋する乙女の顔で上目遣いを決めるのはやめてくれ。流石に可愛いが過ぎるから。
「はいはい。ここで立ち止まってても仕方ないだろ。とりあえずお湯に浸からないか? 夏とはいえこの格好で夜に外でずっといたら風邪ひくぞ」
「んふっ。だね〜。二人でくっついたままぽかぽかになっちゃおっか♡」
「変な言い方すな」
近くに置いてあった桶を使い、湯船からお湯を掬って肩からかぶる。由那も自分にかけて欲しいと腕を広げてきたので、ゆっくりとバスタオルの上からお湯を流した。
胸元でタオルを巻いているせいで露出されている肩や鎖骨には水滴が伝っており、それを見せられて不意にドキりとしてしまう。
子供っぽくて甘えんぼで。可愛らしくゆるふわした雰囲気を纏っている由那だが、格好とシチュエーションのせいか。グラビアの表紙でも飾れるんじゃないかというくらい色気が溢れ出していた。
(落ち着け……こんなのでドキドキさせられてたらもたないぞ)
首元についた水滴はゆっくりと下へ。華奢な身体に浮き出た鎖骨の上を通り、そしてバスタオルの結び目の少し上。二つの果実の盛り上がりによって完成された谷間へと吸い込まれていく。
「ゆーし、見過ぎだよっ。女の子はおっぱいへの視線に敏感なんだからね?」
「……ミテナイデス」
「嘘つきぃ。みょーん、って鼻の下伸びてたよっ」
「そ、それは流石に嘘だろ!」
「うん。嘘だよ? すご〜く見てきたのはほんとだけどねっ♡」
「う゛っ……」
仕方ないだろ。世界一可愛い彼女さんの真っ白な肌に水滴が伝っていくんだぞ? そんなの自然と目で追ってしまうに決まってる。これは不可抗力だ。由那が可愛すぎて魅力的なのが悪い。
「私の彼氏さんはほんとにムッツリさんだなぁ。あ、そだ! 重要なこと伝え忘れてた!」
「へ? 重要なこと?」
「うんっ。経過報告……かな?」
経過報告? 何のことだ。
ちょいちょい、と耳を貸してくれというジェスチャーをされたので、少し嫌な予感がしつつも。そっと耳を預ける。すると由那の顔が寄ってきて、吐息が当たる距離まで唇が近づいた。




