314話 本能と理性1
314話 本能と理性1
「な、ななっ!? なんだその格好!? 水着じゃないのか!?」
「サプラ〜イズっ。せっかくバスタオルがあったからこっちにしてみたよっ☆」
してみたよっ☆ じゃない! これ大丈夫なのか? ちゃんと下は着てるんだろうな? まさか下は裸だったり……。
思わずゴクリと息を呑む。準備とはこの事だったのか。流石に予想できなかった。
いや、まさかな。いくらなんでもそれはないだろ、うん。いつも責めてはくるものの肝心なところで恥ずかしがり屋さんな由那のことだ。「残念、下は着てました〜」ってオチに決まってる。そうだ、絶対そうだ。
「ば、バスタオル一枚って結構恥ずかしいね。水着より身体覆ってくれてる面積は多いのに。どこか心許ないよ……」
「一枚って……さ、流石に下に水着とか着てるんだろ? 騙されないぞ俺は」
「ふふっ、それはどうかな。確かめて……みる?」
「へっ!?」
ズイッ。由那が急接近してくる。
純白のバスタオルに包まれ、ほんのりと頬を紅潮させながら。ゆっくりと俺の手を取ると、胸元の結び目の上に乗せた。
「ゆーしなら……いいよ? ここを解けばタオル、落ちるから。ほら、ちょんって。ちょっと指を引っ掛けるだけで」
「っ……っっ!!」
恥ずかしそうな顔してなんてことをしやがる。
落ち着け。一旦落ち着け俺。
十中八九由那は下に水着を着てる。水着じゃなかったとしても、少なくとも脚部を隠すことができる何かを身に纏っているはずだ。じゃないとこんなことできるはずない。
けどなんだ、この表情は。いつもならこんなことをする時俺を揶揄ってやろうというニマニマした笑顔が滲み出ているものだが。今は違う。
感じ取れるのは緊張と羞恥心。まるで俺にこのタオルをめくって欲しいと思う反面、そうなった時のことを考えると恥ずかしくてたまらないとでも言わんばかりだ。
(つけて、ないのか? 本当に何も……?)
由那は俺の中の狼さんを引っ張り出すと言った。もしこのタオルめくらせが全てその作戦のうちで、自分の裸を見せることで俺を暴走させるのが狙いだとしたら?
ダメだ。可能性が低いと分かっていてもその可能性を捨てきれない。捨て切れないなら……めくるべきじゃない。水着の紐や布でも見えれば確信を持てそうなもんだが、見事に何も見えないしな。
「遠慮……しときます」
「もぉ、相変わらず意気地なしさんだなぁ。でもいいよ。あとで気が変わるかもしれないし……ね?」
目線を逸らしていても分かる。今、由那が浮かべている表情は小悪魔さんそのものだ。コイツやっぱりいたずら心を隠してやがったな。
たぷっ、と揺れる双丘。一体これまでの長い人類の歴史の中で何人の男がこの物体に籠絡されてきたのだろう。
俺も一度だけ触れたから分かる。これは激薬だ。一度ハマるともう抜け出せない、中毒性を秘めた薬物。
あの時はハプニングだったからまだ良かったものの、自分から触りにいくとなれば訳が違う。
やっぱりコイツ、全てを分かってて俺を堕としに来てるのか……?




