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307話 真逆のシチュエーション

307話 真逆のシチュエーション



「ゆぅ〜しぃ〜! ぎゅ〜!!」


「おぅふっ。い、いきなり飛びついてくるなよ」


「えっへへぇ。温泉のいい匂いすりゅぅ……」


 俺たちが男女に別れて三十分ほど。男子組は少し早く温泉からあがりベンチでのんびりと過ごしていた。


 各々フルーツ牛乳とコーヒー牛乳片手に女子勢を待っていると、やがて暖簾をくぐり由那が飛び出してきて。目があった瞬間これだ。


「温泉、凄かったな。俺あんなにヌメヌメしたお湯入ったの初めてだ」


「私も〜! 気持ちよかったにゃぁ〜」


 とりあえず頭を撫でてやると、猫なで声で甘えては俺の胸の中に顔を収めてぐりぐり攻撃を仕掛けてくる。全く、相変わらず甘えんぼだな。


 ってオイ、なんで寛司は隣でクスクス笑ってんだよ。これくらいのイチャイチャならお前らでも平気でやるだろうに。人のことを笑える立場か。


「″今回は″由那ちゃんが飛び出たね。やっぱり見てて飽きないなぁ、二人は」


「今回は? って、どういうことだよ」


「そうだなぁ。まあ私としてはもう一度あの焦燥感あふれる感じを見てみたい気もするが」


「な、なんの話ですか……?」


「ん〜? それはだなぁ」

  

 ひそひそ。蘭原さんの耳元に顔を近づけ、在原さんはこちらをチラチラと見ながら何かを囁いた。


「〜〜〜〜っあ!?」


 そしてその瞬間。蘭原さんの頬が激しく紅潮し、頭からぼふっ、と湯気が上がる。


 一体なんだというんだ。みんなして俺たちの方を見てニヤニヤしたり恥ずかしがったりして。


「前はゆーしから飛び出して行ったのにね。ほら、江口さんに告白するっ! って息巻いて」


「……そういうことか」


 俺は以前、みんなで温泉に行った時由那に告白した。


 親友である寛司に背中を押してもらい、とにかく一秒でも早く由那に会いたくなって。急いで脱衣所から飛び出して行った時のことは今でも覚えてる。あの告白はここにいる蘭原さん以外の全員から覗かれていたらしいし、その時の光景を思い出して笑っていたのだろう。


 あの時は俺から飛び出して由那を探して。そして今回は由那から飛び出して俺に抱きついてくれた。無意識のうちにあの日と対照的な状況を作り出してしまったわけだ。俺だって寛司と中田さんで同じことをしていたら「微笑ましい」と頬を緩めてしまうな。


「えへへ、あの時のゆーしかっこよかったなぁ。私のこと、どうしようもないくらい好きって言ってくれて。その後はキスまで……」


「や、やめてくれ。めちゃくちゃはずいから」


「もう一回再現してくれてもいいんだよ?」


「やらない。絶対やらないからな」


「ぶぅ〜」


 全く、ただでさえあの時の告白は思い返すだけで恥ずかしいんだ。好き過ぎてどうしようもなくなったから付き合ってくれ、なんて。我ながらもう少し言葉が選べただろうと反省しているのに。


 まあ結果的に告白は上手くいき、今こうして由那と恋人関係になって毎日を幸せに暮らせているからもういいんだけども。掘り返されるとやっぱりちょっと、な。


「はぁ〜あ。有美といい由那ちゃんといい、容赦なく砂糖をがぶ飲みさせてくるなぁ。塩っけのあるもん食いたくなってきたわ」


「何それ。おじさんみたいなんだけど」


「るっせぇ。って……そーいやそろそろ夜ごはんの時間じゃねえか。よしお前ら、さっさと広間行くぞ!」


 おお、もうそんな時間か。言われてみればお腹も空いてきてるな。


 温泉旅館の夜ごはん。そんなの想像しただけで涎が出そうだ。


「じゅる……」


「オイ、ほんとに出すなよ……」




 どうやら由那も同じ気持ちらしい。

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