302話 お楽しみの時間
302話 お楽しみの時間
部屋に備え付けてあったバスタオル、フェイスタオル、着替える用の館内着と下着なんかを一箇所にまとめていく。
ゆーしも同様にして。だが何故か、私の方を見たかと思うと少しだけ顔を赤らめてそっぽを向いてしまう。
「ん゛っ……おい由那。そういうのはだな。普通隠すもんじゃないのか?」
「へ? あっ……」
そしてその理由はすぐに分かった。
一段に積み重なっている旅館着、タオル。そしてその一番上に、私が堂々とこれから着替える下着を置いていたからである。
ちなみに今日持ってきたのはピンク色のお気に入り下着。本当はもう一つお気に入りがあってそっちを持ってこようと思っていたんだけど、最近ちょっと胸の辺りが苦しくなってきちゃって。こっちのは一つ大きなサイズに買い替えたものだ。
誇張しすぎない柄や色がちょうど良いし、何より可愛い。気合いを入れる勝負下着にはもってこいだと思っていたけと案の定。どうやらゆーしのえちちセンサーにこの下着は鋭く突き刺さったらしい。
「も〜、照れ屋さんだなぁ。いいんだよ? もっと見ても。あ、それとも着てる状態の方が見たいかな。えへへ、夜にたっぷり見せてあげるね♡」
「み、見せんでい……いや、見たい、けど。やめてくれ。そんなの着た由那に迫られたら多分理性壊れる」
「ふぅ〜〜んっ。良いこと聞いちゃったにゃあ♪」
よし決めた。あとでこの下着を見せながらいっぱい迫っちゃおっと。というか元々そのつもりだったもん。今日は狼さんなゆーしを目覚めさせて……ぐへへ。
「あ、そうだ! あと後でもう一回温泉入ろうね! 大浴場ほどじゃないけど、ここお部屋の露天風呂あるから!」
「そ、そんなのあったのか!?」
「うん。流石に大浴場は一緒に入れないけど、せっかく温泉宿に来たんだもん。ゆーしとも一緒に天然温泉楽しみたいの!」
「ん。そうだな。分かったけど……」
「けど?」
何やら含みのあるその言い方が気になって聞き返すと、ゆーしは疑うようにジト目で私を見ながら言う。
「水着、ちゃんと着てくれよ」
「………………もちろんっ♡」
「なんだ今の間!? おま、本当にわかってるんだろうな!?」
ふふっ、照れちゃって。
なんかそこまで言われたら着たくなくなっちゃったにゃあ。水着姿でお風呂なんていつもしてることだし。今日くらいは違うことに挑戦してみても……いいよね?
「よっし、準備終わり! ほら、多分みんな待ってるよ! 行こ行こ!」
「は、はぐらかされた気がする……」
荷物を一つにまとめ、小さな鞄に入れてから。私たちは二人で部屋を出る。
少し準備に時間をかけてしまったせいか、渡辺君と有美ちゃんは既に廊下で待っていて……ってあれ? ひなちゃんはいるけど薫ちゃんがいない。
「ひなちゃん、薫ちゃんは? お手洗い?」
「い、いえ。えっと……」
「すまーん! 遅くなった!」
バンッ。その瞬間、珍しく髪を乱し焦った様子の薫ちゃんが部屋から飛び出てくる。一体何があったのだろう。
「いやぁ、奈美ねえの服にファブ◯ーズかけたりもう身体まで臭い気がしたから風呂に放りこんだりで遅くなっちった。ったく、あのダメ人間には困ったもんだぜ……」
ああ、そういう。薫ちゃんも大変だ。
そういえば先生と薫ちゃんって昔から近所での付き合いがあったって言ってたけど、いつから先生はあんな感じなんだろう。一応昔はもっとちゃんとしてたって話だったけど。正直ピシッとした姿の先生は想像がつかない。
「ま、こっからはお待ちかねの温泉だ! 楽しんでいこうぜぇ!!」
「お風呂……へへっ。薫さんと……ぐへへ、にぇへへへへっ」
まあ、うん。先生のことはもういいか。
私たちは私たちで、これからお楽しみの時間が始まるのだから。




