301話 我らが化け物先生
301話 我らが化け物先生
「がぁ……ぐごぉっ……」
「「「「「「…………」」」」」」
全員歩き疲れでくたくたになりながら旅館に戻ると、荷物を置いていた三部屋を目指す。
汗もかいてしまったし、まだ夜ごはんまでは一時間ほど時間がある。だから各々ひとまずは温泉にでも浸かろうかなんて楽しげに話していたのだけれど。
全員が部屋の前にいた″それ″を見た瞬間絶句した。
「いいかひなちゃん。これが真のカスってやつだ。反面教師としてよく覚えておこうな」
「せ、先生。なんでこんなことに……」
ぽんっ、と蘭原さんの肩に手を乗せた在原さんには哀愁が漂っている。
仮にも俺たちの担任兼引率の大人が何をやっているのか。全員でため息を漏らした。
はだけた旅館着で床に倒れ一升瓶を片手に持っている先生は分かりやすく酔い潰れている。
下着を着ていないのだろうか。胸元や脚元から色々と見えそうでギリギリだった。仮にも顔は美人さんなのだ。こんな状態で酔い潰れていたら危ない目にも遭いそうなものだが。
(まあ……うん。この化け物を襲おうって輩はそうそういないか)
なんというかこう、肩でも貸そうものならその瞬間に一升瓶を口に突っ込んできそうだ。
ゾンビ……屍? いややっぱり化け物だな。
「ぐごっ。んぉ……? おぉ〜。おかえりぃクソガキども〜。ってあれ? なんで私廊下で寝てんだ? ハッ! さてはこれいかがわしい部屋に連れ込まれた後に捨てられて────へぷっ!?」
「うるせえ臭え。どうやったらそんなずず汚くなれるんだ酒カス」
あ、蹴った。在原さん、先生であり近所のお姉さんな人を容赦なく。しかも腹て。
「ぐぬおぉ……おま、お前ぇ! 私は先生だぞ! ぐれぇとてぃーちゃーだぞ!! あと酒カスじゃない! 酒ヤニ厨とお呼び!!」
「クズ度増してんじゃねえか! クソ、酒の匂いもヤニの匂いももう身体に染み込ませてやがる……。来い! 無限ファブ◯ーズの刑じゃ!!」
「おわっ!? おい、引きずんなって! ぐぬおぉぉぉ!!」
パタンッ。在原さんが先生の胸元を掴みずるずると引きずって部屋に連行すると、中と外を無情にも襖が隔てる。
「あ、あは……は……」
「ひなちゃん、顔が死んじゃってるよ。笑い方が見たことないくらい渇いてる……」
御愁傷様だな。在原さんだけなら対処のしようもありそうなものだが、そこに酒ヤニカスの先生まで入り込んでる。同部屋の蘭原さんの苦労は絶えないことだろう。まあ絶対変わろうとは思わないけども。
俺の部屋と寛司の部屋は平和そのものだが、明らかに蘭原さんのいる部屋だけ破天荒だ。もし本当にどうしようもなくなってそうだったらうちで引き取ろう。うん。
「えっと……とりあえずお風呂に入る準備はしてきていいのかな?」
「いいんじゃね、多分。とりあえず俺と寛司は男風呂だから関係無いし」
「ひ、ひなちゃん。もし困ったら相談してね? 薫は私がとっちめるから!」
「ありがとうございます。ま、まあ心配なのは薫さんより先生の方ですけど……」
俺と寛司は先陣を切るように各々の部屋へと入り、そこに由那と中田さんが続く。蘭原さんも恐る恐るといった様子で襖を開けたそうだ。




