300話記念話12 〇〇しないと出られない部屋2
300話記念話12 〇〇しないと出られない部屋2
部屋の中を物色し、分かったことは二つ。
まず一つ目。この部屋は誰かに監視されているということ。天井の隅にカメラのようなものが設置されており、おそらくそれで私たちのイチャイチャを判定しようとしている。
そして二つ目。ベッドの下に色々と小道具が用意されているということ。隠してあったお道具箱のようなものを開けると、中からはお菓子が何個かに加えてゲームやトランプ等々。最低限ここで生活するためのものが詰め込まれていた。
ここはさながらイチャイチャしないと出られない部屋。私たちを閉じ込めた人にそれを見せつけ、満足させることでしか脱出は不可能だと思う。そのために使えということでもあるのだろう。お菓子にチョッキーがあるのとか、まさにそういうことだ。
「ふーむ……ま、全然ヤバい状況ではあるんだけど。とりあえず出られそうにもないしなぁ。大人しく指示に従うしかない、か」
「そ、それって」
「ん。イチャイチャすっか」
改めて、なんて役得なのだろう。
私たちが誘拐されてるとか監禁されてるとか、諸々の不都合は置いておいて。
薫さんと……大好きな人と合法的に、そして積極的にイチャイチャできる。誰かに見られているという不安はあれど、今はそれに対する高揚感で胸が高鳴ってしまう。
「ほら、おいでひなちゃん。とりあえず私の隣、来なよ」
「ひゃ、ひゃひっ!」
ベッドの端に座って隣をぽんぽんっ、と叩く薫さんに招かれて。私はそっと腰を下ろす。
「そんな緊張しないでさ。せっかくだ、楽しもうぜ。幸い私たちを閉じ込めた奴は危害を加えてくるつもりは無さそうだしな」
「そ、そそそう……ですね。薫さんが、そう言うなら……」
あっという間にこの状況に馴染み、そして適応する。常に全力で楽しみ後悔を残さない薫さんらしい。
手と手が触れる。ニヤりと小悪魔のような表情を浮かべながら指を絡めてきて、あっという間に捕まった。
「ひなちゃんは何したい? まあできることは限られてるけど、私はひなちゃん相手ならなんだってしてあげられるぞ」
「な、なんだって!?」
そ、それってつまり……なんでもお願いしていい、ってこと?
薫さんにお願いしたいことなんて無限にある。こうやって手を繋ぎながらお話もいっぱいしたいし、叶うならいっぱい頭をなでなでしながら甘やかしてほしい。ああでも、無邪気なこの人に振り回されたい気持ちもあるかもしれない。イタズラされて、ドキドキさせられて。そんな時間も私にとっては幸せだから。
考えろ。とにかく思考をまとめてしてもらいたいことを厳選しないと。薫さんは「なんでも」と言ってくれているけど、限度はあるはずだ。それこそきっと″イチャイチャ″という言葉の域を出てしまうようなお願いはしない方がいいはず。そういうのはもっと、もっともっと親密になってからじゃないと。
ならまずは、やっぱり……
「な、なでなでを……いっぱい、してもらいたいでしゅ」
「なでなで? なんだ、そんなことでいいのか?」
「そ、そんなことだなんて! 薫さんに頭をなでなでされるの、大好きなんです……」
「ふふっ、ひなちゃんは甘えんぼだな。いいぞ、たっぷり甘やかしてやろうじゃないか!」
「ひゃう!?」
ぴょんっ、と軽く跳躍した薫さんは、繋いでいた手を離したかと思うと私の後ろに回る。そして脚を広げて私を包み込むように座ると、左手を腰に、右手を頭に。そんな、バックハグをしながらのなでなでを始めた。
「いっぱいイチャイチャ、しような」
「〜〜ッッ!!」




