300話記念話11 〇〇しないと出られない部屋1
300話記念話11 〇〇しないと出られない部屋1
『イチャイチャしろ!! 百合百合しろ!!!』
「……へ?」
それが、目を開けて一番最初に飛び込んできた言葉だった。
真っ白な天井。そこに書き殴られるようにされた文字。
私はベッドの上で眠っていたようで、辺りを見渡すと真っ白な壁に一つの扉。よく見てみると『条件達成で解放』と書いてある。条件とはさっき目に入った天井のあの文字のことだろうか。
「ん、んぅ……ぬぉっ?」
「っ!?!? か、薫さん!?」
そしてここで、私は一人ではないことに気づいた。
私の横でもぞもぞと動き布団から顔を出したのは、愛しの薫さん。ゆるふわな茶髪が揺れ動くとゆっくりと身体を起こして目を擦る。
「ひなちゃぁん? あれ、ここどこだ……私の部屋じゃない、のかぁ……?」
「わ、私も分からない……です。目が覚めたらここにいて……」
一体ここはどこなのだろう。
とりあえず今分かっていることは、ここには私と薫さんしかいないということ。そして、ここは知らない場所であり恐らく課された条件を満たすまで出られないということ。
「イチャイチャ、しろ? 百合百合? あんだぁ? これ」
(こ、ここここれってまさか!?)
そして私は気づいてしまった。この部屋の正体に。
これあれだ。ツオッターとかでよく見る「〇〇しないと出られない部屋」ってやつだ。私たちは誰かに連れてこられ、その部屋に閉じ込められてしまったのだ。
「た、多分ですけど。イチャイチャするとあの扉が開いて出られる……みたいな。そういうことじゃ、ないでしょうか」
「ふぬぅ? 要するに私はひなちゃんとイチャイチャすればいいってことか? え、役得じゃね?」
それはこっちの台詞です。と、心の中で呟きつつ。こんな部屋に薫さんと二人で閉じ込めた誰かさんにそっと感謝する。
本当は誘拐されたとか色々な意味でもっと焦るべきなんだろうけど。これはチャンスだ。こ、この部屋にいれば薫さんとイチャイチャできる。つまり、距離を縮めることができる!
「で、イチャイチャ百合百合ってのは具体的になんだ? くあぁ……条件が抽象的すぎるぞぉ」
あくびをして身体を伸ばしながら、薫さんは言う。
たしかに抽象的だ。イチャイチャ、といっても色んなものがある。捉え方だって人それぞれだ。ただ手を繋ぐだけでもイチャイチャだと考える人もいるし、逆にキスをしてもまだイチャイチャには足りないと思う人もいることだろう。
つまり、明確な採点基準が無い。どのレベルのものをすればここから出られるのか分からない。も、もしかしたら最後まで……か、薫さんとえ、えええっちなことをしないと出られなかったり……ふへ、ふへへっ。
じゃない! 私としてはずっとここで薫さんと過ごしていたいけれど、そういうわけにもいかない。たまたま今は夏休みだからいいけど、やがて学校が始まってしまえば私たちは無断欠席した不良生徒扱い。親にだって連絡が行くだろうし、きっとあらぬ心配もさせてしまう。
だからあまり長居はしていられない。早く……早く薫さんと濃厚なイチャイチャをしてここから脱出しないと!
「イチャイチャ……イチャイチャ、かぁ。とりあえずキスでもしてみるか?」
「へぇっ!? き、ききキスですか!? ま、まだそれは心の準備ができていないと言いますか……いや、したくないというわけじゃないんです。むしろし、したいんですけど……か、薫さんが望むなら私はなんだって……」
「とりあえず何かヒントがないか、部屋の中を漁ってみるか」
「ひゃ、ひゃひっ!」
ぴょんっ、と跳ねてベッドから降りた薫さんには、私のキスに対する返答は聞こえていなかったらしい。どうやら冗談だったみたいだ。ちょっと残念……。




