300話記念話6 深夜、ロッカーにて3
300話記念話6 深夜、ロッカーにて3
ガコッ、ガガガガガッ。ガチャガチャッッ! ドスドスドス……。
足音と金属音、それに床と机が擦れる音。それらが教室の前から後ろへ、入念に調べる先生の動向を俺たちに知らせる。
どうしよう、めちゃくちゃドキドキしてきた。まさかそんなガチで探しに来るなんて。流石は鬼教官と言うべきか。
「ふにゃにゃ……ごろごろごろ♡ ゆーしの匂い、しゅきぃ。すんすんっ」
「あの、由那さん? 鬼教官すぐそこなんですけど。俺たち隠れてるんですけど?」
「分かってるよぉ? だからこの狭いロッカーにいるんだもんね〜っ♪」
「はぁ……もういいや」
駄目だ、もう彼女さんは完全に甘えんぼモード。今更何を言ったところで響くこともないだろう。
ま、由那の言うことも一理あると言えばある。もう隠れてしまったのだからうだうだ言っていても仕方がないし、あとは見つからないよう祈ることしかできないのだ。だったらむしろこの状況を堪能した方が賢い、か。
「隠れてるなら出て来ぉいッッ!! どこだぁ!!」
「えへへ、頭なでなでだぁ。やっと彼氏さんも私を甘やかしてくれる気になったのかにゃ?」
「心臓ドックンドックンしてるからな。心の安定剤だ」
「ふふっ、私を撫でていっぱい癒されてね? こういう時こそリラックスだよ〜」
「はいはい。そうさせてもらいますよ」
とてつもなくヤバい状況なのに、由那の頭を撫でていると少しずつ心が凪いでいくのを感じる。
まだ少し怖い。見つかったらどうなるのか。それを想像するだけで冷や汗をかいてしまう。けれど、やれるべきことはやったのだ。俺たちならきっと大丈夫。逃げ切れる。
そう、自分に言い聞かせながら。無意識に身体を縮こまらせて、由那を抱いた。
「ふむ。どこにもいないな……あと探していない場所は……」
ドスッ、ドスッ、ドスッ。
終わりへのカウントダウンを告げるかのように、足音がより鮮明に聞こえ始める。俺たちの元へ近づいている証拠だ。
きっと先生は俺たちよりも学校の設備のことをより知り尽くしている。経験だって積んでいるはずだ。生徒指導をしている人なら尚更、生徒が隠れるような場所は手に取るように分かってしまうはず。
やっぱりこのロッカーにも過去、隠れていた生徒の一人や二人いたのではないだろうか。だとしたら俺たちはここに隠れた時点でもう……
「ここだぁッッ!!!」
「っ……!」
扉が開く。
ああ、終わった。そう身体で感じ無意識にとった反応は、由那を隠すことだった。
せめて由那だけは、と。本能的に好きな人を守る行動に出たのだろう。そんなことで完全に隠し切れるわけがないのに、俺はできるだけ身体を大きく広げて彼女の細い身体を奥へと追いやりながらより強く抱きしめる。
そしてそんな背中を、鬼塚先生が手に持っていた懐中電灯が照らして────
「むむっ。いない……か。おかしいな、確かに人の気配がしたんだが……」
「へっ……?」
「はずれ〜っ♪ 私達の勝ちみたいだよ?」
由那の小さな囁きに目を開けると、俺たちの視界は依然暗いまま。先生の声も若干ではあるが俺たちと距離がある。
「掃除用具入れ……か」
「うん。このロッカーじゃなくてそっちに行ったみたい」
「まあいい。巡回に戻るか……」
図太い足音が去っていく。
どうやら俺たちは無事に隠れ切ることができたらしい。しばらくは先生が近くにいることが明らかだからここから出られないが、ひとまず危機は去ったと言っていいだろう。
「ふぅ。怖かったぁ〜」
「ほんとか? 由那は余裕綽々って感じしたけど」
「それは心強い彼氏さんが隣にいたからだよっ。ここが開けられるかもって時も、私のこと守ろうとしてくれてたもんね?」
「ん゛っ……な、なんか恥ずかしいからやめてくれ。あれは無意識だったんだよ」
「ふふっ、無意識下でも私のこと、本能的に守ろうとしてくれるんだ」
「う、うるさいな。ほら、そろそろ出るぞ」
それから、俺たちは鬼塚先生に遭遇しないようゆっくりと廊下を進んで。無事に裏門から学校を抜け出した。
全く、こっちはまだ少しあの恐怖感が残っているというのに、彼女さんはえらくご満悦だ。密着イチャイチャができたうえに、俺が無意識に由那を守ろうと動いたことも相当嬉しかったのだろう。
「ん〜っ! 帰ったら今日はもっといっぱいごろごろイチャイチャしたいにゃ〜っ! ね、今日は久々に夜更かししていっぱい甘々ハグしよ? キスもいっぱい!!」
「何言ってんだ。その手に握られた課題をやるために取りに行ったんだぞ。それが終わるまでイチャイチャはお預けだからな」
「え〜っ!? ぶぅ、焦らさないでよぉ。私は今すぐにでもさっきの続きしたいのに……」
「駄目なものは駄目だ。ガマンしなさい」
「ちぇ〜。いいもんっ。こうなったらたっぷり焦らされる分、今日は朝までイチャイチャ祭りを開催します! 絶対に寝かせないもんね!!」
「おい待て。明日も普通に学校あるんだぞ?」
「そんなの知らないも〜んだ。ぷいっ!」
「はぁ……ほどほどにしてくれよ?」
「えへへ、やったぁ。なんだかんだ許してくれる彼氏さん大しゅきっ♡」
結局その後、課題が思っていたよりもしんどくてイチャイチャどころではなくなるんだけども。
この時の俺たちはまだ、そんなことは知る由もない。




