300話記念話5 深夜、ロッカーにて2
300話記念話5 深夜、ロッカーにて2
「……こういう時のロッカーって普通、相場は縦じゃないのか?」
「なっ!? お、押し込んどいて今更そんなこと言わないでよぉ! うぅ、狭いぃ……」
ロッカーに閉じ込められるっていうシチュエーションを作ろうと思ったら、普通は掃除用具入れとか更衣室のロッカーとかだ。
だから必然的に立て向きになる。縦長なそれに立った状態で二人、密着して……というのがテンプレだと思う。ラブコメや恋愛系の作品はあまり見たことがないから絶対的自信があるわけではないけども。
少なくとも横向きではないと思う。
「で、でもちょっとドキドキするね……えへへ」
「えへへじゃないって。バレたらヤバいんだぞ」
「でも、狭い場所でゆーしと密着するの大好きなんだもん」
「狭すぎるだろ、流石に」
二人ギリギリ入ったことすら奇跡だ。最悪入れそうになかったら俺だけ机の影とかで無理矢理やり過ごそうかと思っていたくらいだし。
にしても、やっぱりコイツ良い匂いするな。シャツ一枚で遮る布が少ないから余計にか。閉鎖空間で甘い匂いがあっという間に充満していく。
「ね……ぎゅっ、していい?」
「い、今か!? それ、見つかったら余計にヤバいぞ……」
「その時は一緒に怒られよ? 今はそれよりも大好きな彼氏さんとぎゅっぎゅしたい気分なのです」
「うぬ……で、でもなぁ……」
こんな狭いところで二人、ハグしている状態で見つかったりなんかしたら。きっと普通に隠れて見つかるよりも罰は重くなることだろう。
だってそうだろう? 夜に男女が教室のロッカーで二人きり、ハグをしていたのだ。先生側からすれば″いかがわしいこと″をしていたのかと真っ先に疑うはず。そうなったら夜に学校へ侵入していた事に加えてその事についても怒鳴られるわけで。下手をすれば停学、退学にも繋がりかねない。
「じゃあいいも〜ん。私から一方的にぎゅっ、して楽しんじゃうから」
「へっ!? ちょ────ん゛んっ!!」
「声出しちゃうダメ、だよ? 逃げるのもめっ。音を立てないよう、大人しく私に身を委ねるのです♡」
少し身体を下に移動させて上手く俺の胸元をロックオンした由那は、一瞬にして俺の背中に手を回して抱擁を始める。顔をぐりぐりと押し付けながら脚まで絡めて、まるで部屋の布団の中で毎晩甘えてくるあの時みたいに。
「むふんっ。ここならゆーしは逃げられないもんねっ。声も出せず動くこともできない。彼氏さんに甘え尽くすには最高のシチュエーションなのだぁ〜」
「お、お前なぁ。危機感とか……」
「あるよっ。でももうここに隠れちゃったからどうすることもできないもん。ならせめてこの状況を楽しんじゃおっかなって!」
なんというポジティブ精神。あ、こら。双丘まで押し付けるんじゃありません。今思わず動きそうになったぞ。
「ここかぁ!! どこかに隠れてるのか!? クソガキ共がァァァッッ!!!」
「ひっ!?」
バァンッ! と凄い音を立てながら鬼塚先生が教室の中へと入ってくる。まずい、やっぱり誰かがいることは勘づかれていたのか。
恐らく懐中電灯で照らしながら机の影を隅々まで探しているのだろう。それらしい物音と共に足音がこちらへと近づいてくる。俺だけ外に放り出されていたら確実に見つかってたな。
「先生、入って来ちゃったね。見つかっちゃうかな……」
「どうだろうな。大丈夫だと思いたいけど。とりあえず絶対変なことするなよ。物音立てたらガチでヤバいからな」
「はぁ〜い。ゆーし成分充電しながら大人しくしてまぁす」
「ほ、本当に分かってるんだろうな……」
なんというか、うん。コイツやっぱり緊張感無いな? 相手が幽霊じゃなく人間だと分かったからだろうか。
何はともあれ、このまま無事にやり過ごせるといいのだが……。




