300話記念話2 君のためのASMR2
300話記念話2 君のためのASMR2
「ちょ、待てって。誤解だ。俺はそんなの聴いてないぞ」
「怪しい! だってゆーし、いっぱい聴いて慣れてるって言ってたもん!!」
「い、いやそれは違くて……」
俺がいっぱい聞いていたのはさっきの耳かきのやつとかで、とにかく女の子系のものなんて本当に聴いたことが無い。
だがASMRというコンテンツを調べれば調べるほどそういう少し刺激的な要素が含まれたものが数多く出てきてしまったようで、顔を真っ赤にしながら怒り浸透の様子だ。
さて、どうしたものか。別に俺としては動画の閲覧履歴なんかを見せてもいいんだけども。履歴を消した、なんて言われるとより疑いが深まるだけな気もするし。
なんとか宥めて信用してもらうしかない、か。
「とにかく、俺は由那以外の女の子に癒されるなんてこと絶対に無い。信用してくれよ。な?」
「むぅ……し、信用してないとかじゃない、もん。でもとにかくもうASMRは禁止! さっきみたいなのも聴いちゃダメ!!」
「さっきのもダメなのか? 女の人全く出てきたりしないけど……」
「ゆーしを癒すのは彼女さんである私の仕事なのっ! 私だけが癒すのーっ!!」
ご、強情だ。俺を癒そうとしてくれる気持ちは死ぬほど嬉しいんだけど、なんか独占欲が変なところに向いてる気がする。
ASMR、ハマってから禁止にされるまで早かったな。僅か数日の命だった……。
心の中で儚い呟きをする俺だったが、そんな横顔を見つめながら。ぷくぅ、と頬を膨らませていた彼女さんが呟く。
「……ASMRくらい、私がするもん。いっぱいいっぱい、シてあげられるもん」
「へっ……?」
今、なんて言った?
由那が俺にASMRを? そ、それってどっちだ? 耳かきとか音フェチみたいなやつか? それとも……刺激的な方か!?
「ゆーし、ここで横になって。ほら、ごろんして!」
「お、お前本気か!? マジでASMRするのか!?」
「する。いっぱいする! 私がゆーしのこと、ドロドロの甘々になるまで甘やかすもん! 他の女の子のを聴かないよう、私の虜に!!」
「おわっ!?」
由那に押し倒され、ソファーに横たわる。
ぽふっ、と柔らかい音がすると共に枕が頭の下に敷かれるとあっという間に準備万端。視界にはソファーの背もたれだけが映り、後ろでは由那が待機している。
そして俺の頭に軽く手を当て、顔を近づけると。言った。
「え、えっちなのは恥ずかしくてできない、けど。とにかくたくさん、私の好きを流し込むね。彼氏さんに満足してもらえるように頑張るから。甘い言葉、いっぱい囁くから……」
ゾクッ。微かに耳にかかる吐息に鳥肌が立ち、身体が震える。
さ、囁くって。好きを流し込むって……俺は今から一体どうなってしまうんだ。
「じゃあ、始めるね?」
ふうっ、と小さく深呼吸。覚悟を決めるかのようにその音を響かせた由那は、唇が耳に触れるその寸前まで顔を近づけて。甘い言葉を囁き始める。
「ゆーし……好きっ。大好き。世界一好きだよ。かっこいい……少しだって離れたくない。ずっと……ずっとずっと一緒にいたい。一緒にいるだけで心臓がきゅーってなって。もうどうしようもないくらい……大好き♡」
「〜〜〜〜ッッ!!」
俺はもしかしたら、とんでもないことをされ始めたのかもしれない。
そう気づいた時にはもう遅かった。




