295話 イチャイチャ水族館デート4
295話 イチャイチャ水族館デート4
カシャッ。乾いた音が響くとともに、両頬に熱が篭っていく。
急に距離を詰められ、身体を引き寄せられた。かろうじて手を繋ぐだけだったから抑えられていた″好き″が熱として暴発したのである。
「い、いきなり撮らないでよ……びっくりするでしょ」
「あはは、ごめんごめん。でも見て。良い写真撮れたよ」
満足そうに見せてきたのは、ほんのりと頬が赤い私と写真写りばっちりの寛司。そしてその頭上に映るウミガメと、光加減完璧でまるで私たちが本当に海の中にいるかのような、そんな写真だった。
普段から自撮りなんてしてない癖に、やけに撮り方が上手い。あの咄嗟でよく手ブレもせずにこの写真を撮れたものだ。
「……送って」
「もちろん。あ、そういえば初デートの時のと写真を見比べようって話だったっけ。フォルダ分けしてるからすぐ見つかると思うし俺が探すね」
「う、うん」
フォルダ分け、か。
寛司はすぐさまLIMEで私に写真を送ってから、無防備極まりなく写真フォルダを開く。
いくら彼氏彼女の関係とはいえ、恥ずかしい写真の一枚くらいありそうなものなのに。怖いもの無しか。それともこんな事をするのは私にだけか。
「って、何そのフォルダ!? ちょ、名前っ!!」
「え? 『有美との思い出』フォルダだけど。どこか変?」
「へ、変っていうか……ああもう、いい! やっぱり気にしないで!!」
恥ずかしかった。
変なフォルダ名じゃない。きっと寛司にとっては普通なのだろう。だけど、なんかこう……寛司のスマホに私の名前の、私との写真しかないフォルダがあるというのが恥ずかしくて。ついつい声を上げてしまった。
(と、というか私の方がフォルダ数、多いし。私の方が恥ずかしいよ……)
寛司のスマホにあったフォルダは五つほど。勉強関係のものとか、風景的なものとか。あとは学校関係のもの等々。そしてその中に私との思い出を凝縮したフォルダがあった。
ちなみに私のスマホのフォルダ数は軽くこれの十倍を超えている。昔の写真を遡る時時間がかかるのが嫌だから、寛司とはデートに行くたび撮る写真をそのデートごとにフォルダ分けしていたり。あとはかっこいい寛司の写真とか、寝顔の写真とか……気づけば寛司づくしになってしまっている。やましい写真はないけれど、流石に堂々と見せるのはちょっと、ね。
「あった、これだ。って……ふふ」
「え、なに? なんで笑って……」
「見てこれ。有美の表情」
「っっっう!?」
寛司のスマホに映し出された私と、私のスマホで表示しているさっきの写真の私。
人に撮ってもらったものと自撮りしたものだから画角とか映り方とかそういうのは全然違うけれど、たった一つ。私の表情だけが……全く一緒だった。
「顔赤くしてすぐに恥ずかしがっちゃうところは昔から変わってないってことだね。そんなところも可愛いよ、有美」
「うっさい……マジでうっさい! 今回はアンタがいきなり不意打ちしてきたからでしょ!?」
「でも、不意打ちしなくても有美はすぐに赤くなるよ?」
「〜〜〜〜ッッ!! ふんぎゅぅっ!!」
ぐうの音も出ず、私はそんなよく分からない声を上げて悶えることしかできなかった。




