292話 イチャイチャ水族館デート1
292話 イチャイチャ水族館デート1
実は、俺は由那と付き合うこととなってから初めてのデートに水族館を選ぼうとしたことがある。
ただ結局そうはならなかった。その原因は、いい水族館がないかと探していた時にふと目に止まってしまった『初デートで水族館に行ったカップルは別れる』というネット記事である。
記事の詳しい内容は覚えていないが、確か読めば読むほど確証は無くて、ジンクスや噂程度の話だという結論を自分の中で出したものの。なんやかんやでそれがずっと引っかかり、初デートに水族館が使われることはなかったのだ。
俺の家の近所に水族館が無いこともあってか、それから何度も由那とデートしていたのにそれが選択肢に入ることはその先もなかった。多分無意識下で避けてしまっていたのだろう。
だが、入ってみれば分かる。ここは……
「わあぁ〜っ!! 見て! 見てゆーし!! サメさんがいっぱいいる〜っ!!!」
「お、ほんとだ。ノコギリザメにチョウザメ……へえ、あれはネコザメっていうのか」
彼女さんと来ても最高に盛り上がる場所だ。この水族館とかいう施設は。
まず中に入って第一に目に止まったのは、サメが数多く入れられた水槽。初めはどれがどれなのかよく分からなかったがしっかりと写真付きで名前、特徴なんかが書かれた説明文が看板のような形で見れるようになっており、それと照らし合わせながらだとより楽しむことができる。
「よぉ〜し、ひなちゃん! 私たちは深海魚見に行こう深海魚!! あっちにいるらしいぞぉ〜!!」
「じゃあ俺たちは熱帯魚見に行こうか。可愛い小魚も多いみたいだよ」
そして俺たちがそんな風にサメの水槽に目を奪われている間に。気づけば後ろの四人は姿を消し、各々が別方向へと歩き出していた。
おそらく在原さんの配慮とそれを汲み取った寛司による行動が原因だろう。気づけばあっという間に三組のカップル(うち一組それっぽいだけの全く別な関係だが)に別れそれぞれで水族館デートを楽しむような形になっていた。全員で見て回るのも楽しそうな気がしたが、どのみちイルカやペンギンが出るらしいショーの時には全員集まることだろう。なら今は由那と二人きりで楽しもうか。
「あれ? 有美ちゃんたちがいないよ……?」
「ああ、みたいだな。俺たちはお二人で楽しんで、ってことじゃないか? 気を遣ってくれたんだろ」
「むぅ。だとしても無言でどっか行っちゃうことないのになぁ〜。ま、それはそれとして私はゆーしとイチャイチャ水族館デート楽しんじゃうんだけどねっ!」
「はしゃいでるなぁ。俺もだけど」
「水族館デートは初めてだもんね♪」
「だな。目一杯楽しもう」
ガラスに張り付いていた由那が立ち上がると同時に、俺は手を差し伸べる。
指と指を絡み合わせ、ガッチリと結んでから。恋人繋ぎで隣同士に並ぶと、歩き出した。
「どれから見たいとかあるか? もしあるなら優先してそこから────」
「全部! 全部見てまわろっ!!」
「……そう言うと思ったよ」
なら、俺たちは順当に館内コースをゆったり巡っていくとしよう。ここの規模は中々なものだが、時間はたっぷりある。そうそう途中で時間切れなんてことも起こるまい。
イチャイチャ水族館デート、スタートだ。




