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284話 瞬間的に襲うもの1

284話 瞬間的に襲うもの1



 何本もワイヤーが張り巡らされ、しっかりと固定された橋の上に一歩目を乗せる。


 風は無風に近く、そもそも橋自体が吊り橋のようなものではなくちょっとした道路レベルに頑丈な物なため、場所は高いがかなり安定感があった。


 が────


「う、うぅ。高いよぉ……」


「やっぱ相当怖いぞこれ。オイ由那、ちょっと下見てみろよ」


「へ? ……ひにゃあぁっ!? た、たたた高っ……下、落ちたら絶対助からないっ!!」


 どれだけ安定感があろうとも、俺たちが今いる場所が落ちれば死ぬ所であることに変わりはない。


 下に流れている川はもはやミニチュアのようにすら見える。距離がありすぎて遠近感がめちゃくちゃだ。


 案の定由那は脚をガックガクに震わせながら俺にしがみつくよう歩いており、いたずら心で下を見せるとより震えが増した。俺もやはり相当怖いのだが、さっき寛司が言っていた現象をひしひしと感じている。怖がりまくっている由那を隣に置いておくとどこか心が凪いでいく感覚があった。


「か、薫ちゃんとひなちゃんはどんどん先に進んで行ってるし……。ねえ、やっぱり引き返さない? 有美ちゃんも巻き込んで四人で戻ろ? ねっ?」


「いや、んなこと言ってもなぁ。なんやかんやちょっとずつ進んで今全体の三分の一くらいは来てるぞ? 中田さんも後ろで必死に頑張ってるし」


 ちなみに中田さんと寛司も俺たち同様、遅い歩みではあるものの全身を続けている。せっかくの努力を踏み躙るように巻き込んで引き返すわけにはいかない。


 というか、由那には俺が無事渡り切るために隣にいてもらわなきゃいけないからな。意地でも帰してやらないが。


「まあ……あれよりはよっぽどマシなんじゃないか?」


「へぇっ?」


 そんなこんなでゆっくり進む俺たちの横……正確には橋から離れた場所でさっきから高速移動していく人達を指差す。


 一本の太いワイヤーから吊るされた紐のようなものを手に持ち、しがみついて橋の全長分を下に一切何もない状態で滑っていくアトラクション。イメージ的にはジャングルの「あ〜ああ〜」と叫びながらツルで川を飛び越えたりするあれに近いだろうか。


 だがあれはそんなものの比ではない。下に何もない状態、かつそもそも地面から数十メートルも高い場所で。そのうえ数百メートルもの長距離を滑る。いくら安全性を配慮していると言ってもあれは命の危機を無限に感じられる事だろう。正直滑っている人の気が知れない。


「ん゛びい゛ぃぃいぃぃぃぃぃい!!!!」


「アッ……アッ……アァッ……」


「ひやっほおぉぉぉぉう!!!」


「………………」


 滑り方は三者三様。涙を撒き散らす人もいれば、死期を悟ったかのように真っ青な顔で滑る人。はたまた陽キャ丸出しのイケイケテンションの人もいるし、もう恐怖が一定の地点を超えて言葉すら出なくなった人も。


 在原さんがあれをやると言い出さなくて本当に良かった。いくらなんでもあれだと俺も全力でリタイア側に回っていた。中田さんや由那だってあんなものを滑らせてしまえば途中で気を失いかねない。


「……あ、あれって人がやっていいものなの?」


「流石の在原さんでもあれは尻込みしそうだよな。いくらなんでも怖過ぎる」


 高さだけじゃない。不安定さと速度まで兼ね備えたあれは、もはや絶叫系と呼ぶに相応しい。いや、あの圧倒的な高さを考慮するともはや余裕でそれ以上か……?


 まあ何はともあれ、横に俺たち以上に怖い思いをしている人がいると思うと少し心が楽になる。やはりこの橋は安定感もあるし、この調子なら最後まで────


「「……えっ?」」


 橋全体の七割程度を進み、後ろの寛司たちもちょうど半分の地点を超えた。その地点で少しの心の余裕によりたかを括った、その瞬間。


 びゅうううううぅ。


 瞬間的に。そして爆発的に。




 突風が俺たちを襲った。

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